Volleyball Boys 3《ハイキュー!!》
第4章 失恋はプロローグ:菅原
連れてきてくれたのは、部室棟の2階、男子バレー部の部室。大地には内緒な、と笑って、菅原はご丁寧に自販機で飲み物まで買ってきてくれた。
「あったかいココアと、あったかいお茶、どっち?」
『ココアが、いい』
「やっぱり、世都ならそう言うと思った」
はい、と手渡してくれるそれは、開けやすいように一度キャップを捻った跡がある。こういうさり気ない優しさが、今は傷口に塩を塗るようにしみる。
地べたでごめん、と菅原に促されて座る。自分のロッカーから、使ってないタオルを渡してくれて、床気になるなら下に敷いてと言う。それから、一応当番制で掃除はしてるんだけどな、と苦笑いした。
改めて部室を見回してみる。壁際に並んだロッカー、反対の棚にはバレーに関する過去の雑誌や審判のルールブック、テーピング、使い古したボトル。それから壁には週刊漫画の袋とじらしきグラビアアイドルのお姉さんのポスター。
「あー、あんま見ないでよ、
別に綺麗なところじゃないからさ」
むしろここぐらいしか思い付かなくてごめんな、と手元のお茶に視線を落としながら、菅原は言う。
『うぅん、助かってる、ありがとう』
「話したいことなら話せばいいし、
言いたくないなら言わなくてもいいから」
胸を貸して欲しかったら菅原さんが貸してあげよう、とおどけていうから、それは大丈夫だよと思わず笑がこぼれる。
あったかいココアをひとくち飲んで、私は口を開いた。
『嶋田さんのことは、中学生の頃から知ってて、
よく行くスーパーのお兄さんって感じだった』
最初は美味しい野菜の見分け方を教えてもらったり、特売品をこっそり取り置きしてくれたり、そんな、普通のお客さんと店員さんの関係。
でも、中学2年生の時に、当時好きだった男の子にチョコレートを作りたくて、材料を買いに行った。たまたま声をかけた嶋田さんが、生クリームやら板チョコレートやらを入れたカゴを覗き込んで、“陽菜乃ちゃんがチョコ作ってくれるなんてその子幸せだな”って、笑って。
その優しさでいっぱいの笑顔と、大人の余裕に、好きだった男の子なんて忘れるぐらい、胸がときめいて。