Volleyball Boys 3《ハイキュー!!》
第4章 失恋はプロローグ:菅原
高校3年生の、春。
私は、大好きだった人に、振られました───
翌日、泣き腫らして真っ赤な目をして登校すると、前の席のクラスメイトがぎょっとする。
「ど、どどどどうしたその目!?」
『すがぁ……』
少し灰色がかった髪色と、同じ色の凛々しい眉毛が、心配そうに下がっている。左目に、可愛い泣きぼくろがひとつ。人の良さそうな、親しみやすい顔。
菅原孝支は3年間同じ腐れ縁のクラスメイトで、私の苗字が“せ”から始まる世都(せと)だから、毎年4月の出席番号順の席では前後だった。ちなみに、その菅原の前には、いつも澤村がいる。
「ん、なした?スガさんに話してみ?」
『フラれた』
「ええぇええぇっ!?」
こんなに可愛くてめんこちゃんな陽菜乃ちゃんをどこの誰がフッたんだよ、と大袈裟なぐらいに叫ぶ菅原。よーしよしよしと言いながら、頭を撫でてくれる。毎回私が失恋すると慰めてくれるのは、同性の友達より先に菅原だった。
「んで、今回の犯人は誰?」
『バイト先のひと』
「って言うと、嶋田マートだから…ゑ?」
『何も言わないで、
自分でも馬鹿だったって思ってる』
昨日あれだけ流したはずの水分が、じわりと目の表面を覆う。あぁ、学校では泣かないって決めたのに。恥ずかしいとも違うし、悲しいとも違う、不思議な気持ち。
ぼろ、と左目からしずくが溢れたのを皮切りに、両目からぼたぼたと大粒の涙がとめどなくわいてくる。喉からこぼれそうになる嗚咽を、懸命に堪える。咄嗟に、ブレザーの中に着ているパーカーのフードを被って俯いた。
「大地、ごめん俺ちょっと便所!」
行こう世都。
呼ばれ、顔を上げる間もなく手を引かれ、突然立ち上がったことで弾かれるように椅子がガタンと音を立てる。
「スガ、世都も便所か!?」
「そういうことにしといて!」
『えっ、あっ』
教室を出る直前、澤村が驚いたのが聞こえた。安心して欲しい、私もびっくりしてるから。
そうして、ホームルームの始まる直前、急いで登校してくる生徒たちの間を逆走して、私と菅原は学校を駆けた。