Volleyball Boys 3《ハイキュー!!》
第3章 ☆YOU ARE MINE.:京谷賢太郎
いい時間だからそろそろお開きね、と手を叩きながら及川さんが撤収を促す。外を見ればとっぷりと日は暮れ、まだ暑さは少し残っていても、フライングしたスズムシやコオロギがリンと鳴く。
そう言えば、さっき話してた遠征の話、やっぱりもう少し及川さん、いや、岩泉さんと話したいな。1年生たちからボールを回収してはカゴに入れていく岩泉さんの元へ、さっき貰ったプリントを入れたファイルを抱えて駆け寄る。
『あの、岩泉さ、んぐっ!』
「片倉ッ?!」
踏み出した右足に、ついてくるはずの左足はその場に置いてけぼりで、ビッと引っ張られる感覚に、靴紐を踏んだのだと直感で気付く。さっきほどけかけているの、直してなかった。
やってしまった、このままファイルから飛び出した書類をぶちまけて、顔面から体育館の床に突っ込むんだ。みんなみたいにフライングできないし、あーあ、鼻血出ちゃうかも。
衝撃に備えて、目をぎゅっと瞑る。だが、想像していた地面にぶち当たる感触はいつになっても来ない。代わりに、なんだかあったかくて力強い何かに支えられているような。
「ッぶねぇ、お前、大丈夫かよ」
『う、わっ、いわ、いずみ、さん』
「陽菜乃ちゃん!
飛び込むなら筋肉ダルマじゃなくて
白馬の王子の及川さんにすればいいのに〜!」
「ちなみにファイルは花巻がナイスキャッチ」
ハッと両目を開けば、視界いっぱいに飛び込む、白いジャージとその奥のミントグリーンのシャツ。右手で触れたすぐ布越しに、どくどくと力強く脈打つのはきっと心臓。派手にすっ転びそうになった私を、どうやら岩泉さんがキャッチしてくれたらしい。
『っ、す、すすすすみません今どけます!』
「あ、いや、ちょっと待て」
『はひっ』
「片倉の髪の毛がジャージに絡まってる」
『うそ』
こんなご都合展開があっていいのか。いやご都合では無いか、多分及川さんの次に多い岩泉さんのファンに見られたら、潰されるどころじゃない。
どれどれ、と他の3年生も集まってみてくれているが、結っていないサイドの後れ毛が見事に挟まっているらしく、中々取れない。