Volleyball Boys 3《ハイキュー!!》
第3章 ☆YOU ARE MINE.:京谷賢太郎
同じ階に教室はあるので、階段を昇ったところでバイバイをして京谷と別れた。クラスに帰れば、矢巾は自分の席で突っ伏して寝ているところ。ちょうど予鈴が鳴ったので、栗色の髪に指を突っ込み、つむじを押す。
『おりゃ、つむじ攻撃〜』
「ん、起こすなよあと5分寝れるだろ...」
『何言ってんのさ、移動教室だよ』
いまだに渋る矢巾に、ほらほら、と教科書で頭を軽くはたく。教室でやればいいものを、どういう訳か英語表現の先生は視聴覚室でやりたがるから意味が分からない。
寝起きだからかだるそうに歩く矢巾の隣に、にこにこしながら並ぶと、お前近すぎるんだけど、とちょっと押し退けられる。
『ちょ、触んないでよえっち』
「はァ?別にそんな気ないんですけど、
てかあの後京谷と喧嘩とか大丈夫だったん」
『まぁ拗ねてはいたけど、
でも自分で燃料補給して元気になってた』
何を言ってんだ、と言わんばかりの怪訝そうな顔をされたので、コレ、自分の唇を人差し指で2回つつく。納得したのか、学校でサカってんじゃねぇよ悪態をつかれる。
『そんな訳で、作戦は続行です』
「先が長そうで俺は安心した」
『案外すぐ帰ってくるかもよ〜?』
「あんま嬉しくねぇよ、俺らは、
あいつ戻ってきたらお前そっちばっか構うだろ」
それはそれで癪に障るんだよな、と呟く矢巾。俺ら、って複数人の意見みたいにしてるけど、寂しいの矢巾だけじゃんね。
『なんだ、矢巾可愛いとこあんじゃん〜!
安心して、部員はみんな等しく大好きだよ〜!』
「わっ、バカお前、髪の毛やめろ!
朝からセットしてんだよこっちは!」
階段によって生まれた身長の逆転を利用し、眼下の矢巾の髪をこれでもかと両手でわしゃわしゃする。矢巾のやめろはもっとやれなんだよ、って松川さんも言ってたし──まぁ許されるわけが無い──いいかなって。
そして私は思い出す、この階段は2年1組の前だってこと。背後から感じる刺すような鋭い視線。廊下の踊り場、半階下がったそこから見上げると、今日一の鬼の形相をした京谷。
文句を言いながら髪を整えている矢巾は気付いていないようなので、まぁこのままでいいか。ひらひら、と手を振るだけにして、私たちは移動教室へと向かった。