Volleyball Boys 3《ハイキュー!!》
第6章 記憶から消してもいいですか!:北
夕暮れと夜の間の空をぼんやりと視界に捉えながら、北先輩と歩く。私の歩幅に合わせてくれてるんか、ゆったりとしていて、あぁ好きだなぁと胸の当たりがじんわりあったかくなる。
部活の話をぽつぽつとして、帰宅ラッシュを過ぎて少し空席の目立つ列車に乗り込む。がたんごとん、がたんごとん。規則正しい音と揺れが、学校と部活で疲れた体を眠りに誘う。
「そんで、アランが………ん、片倉?」
『……ふぁっ、すみませ、
いま一瞬意識どっか飛んでました…』
「ええよ、疲れてるやろ」
『いえっ、北先輩の方が私より動いとりますし、
絶対疲れてます、起きます、お気になさらず』
そこまで早口で捲し立てると、ふふ、と北先輩が口元に手を当てて笑う。それから私をじっと見詰め、それはそれは、優しそうに目を細める。あかん、その顔だけで昇天しそうや。
「片倉は、可愛ええな」
『そ、んな...
北先輩、あかんです、死んでまう...っ』
慈しむような北先輩の表情と真っ直ぐなその言葉に、ぼぼぼっと音が出るぐらい顔が熱くなる。思わず目を逸らして両手でわっと顔を隠すと、隣からはなんでそうなるねんと愉快そうに笑う北先輩の声。
そこから私の最寄り駅に着くまで、北先輩はいちいち私の反応を少しからかうようなことを言うてきて、あまりにも刺激が強すぎて。この先20年分の“きゅん”を摂取したんやないかってぐらい頭も心もいっぱいいっぱいやった。
『ほんなら、次で降ります...』
「家まで送ろか?」
『大丈夫です、こっからチャリなんで』
「ちゃんと電気つけるんやで、
車と人にも気ぃつけてな、明るいとこ通りや」
最後まで心配してくれる北先輩にお礼を言って、私はホームに降り立つ。ひらりと手を振る北先輩に、列車の音が聞こえなくなるまで直角に腰をおって頭を下げる。
それから、水筒に残ってたお茶を一気飲みして、その場にうずくまる。
『あか───ん!
ほんっまにあの人イケメンすぎるやろ!』
地面に向かって叫ぶ女子高生に、ぎょっする利用客。すみませんとペコペコしながら、急いでスマホを開く。これは、報告せん訳にはいかんやろ。