Volleyball Boys 3《ハイキュー!!》
第5章 ★はないちもんめ:角名
角名くんが出してくれた麦茶を一口飲み、ふぅっと息を吐く。正面で頬杖をついて座る角名くんは、余裕のあるそうな表情を浮かべていて、私との差がものすごい。
「緊張してる?」
『そりゃ、もちろん』
「痛くしないから、大丈夫やで」
テーブルの向こうからするりと角名くんの手が伸びてきて、コップを掴んでいた私の右手に添えられる。そっとコップから手を離すように促され、手のひらを上にした状態で角名くんの手が私のを握る。
角名くんの指先が親指の付け根と手首の間ぐらいを触れると、めっちゃドキドキしてるね、と目を細めて笑った。
『脈、分かる?』
「うん、俺のも触りな」
角名くんの手首のところを指先でさわさわと探れば、指先に感じる拍動。でもそれは、確実に私のよりはゆっくりとしていて、やっぱり緊張しているのは私だけなんだなぁと思う。
手首から母指球を辿り、親指、それから人差し指を撫でていく。私のと違う、骨張っていて、それなのに少しだけ華奢に見える指。細長くて、綺麗だなと思い、指を見詰め、手のひらを引っくり返したりして、しげしげと眺める。
夢中な私に、角名くんはクスと鼻で笑う。
「手ぇ、好き?」
『うん、倫太郎の、綺麗やし』
「陽菜乃のはちっちゃくてもみじみたい」
それって幼稚園児の手によく言うセリフじゃん、と反論すれば、俺からすれば陽菜乃も幼稚園児も小さくて可愛いのに変わりないよ、なんて鋭い矢が飛んでくる。
別に、言うほどチビじゃないし、手だってまぁ小さいけど、それは倫太郎と比べたらだし。角名くんの手をパッと離し、口の中でもごもごと反抗すれば、名前を呼ぶ、低い声。
『はーあ、
5歳児はおねむだからもう帰ろうかな』
「陽菜乃、俺は別にその手ぇ嫌いじゃないよ」
それに。
「幼稚園児にはこんなこと、できんやろ」
ぴたり、と、角名くんの両手が膨らませた私の頬に添えられる。目閉じないの、と言われ、瞬きをして考える。ここで目を瞑れば、きっとキスを期待してるって思われる。けど目を閉じ無かったら、強情だって言いながら、角名くんはキスをするんだ。
それなら、前者の方が。
ぱたり。視界を閉ざすと、唇に温もり。触れるだけのキスは、優しくてあたたかくて、陽だまりみたいだった。