第131章 最終章【コーヒーはミルクだけ】
カウンターからでて、お客さんにゆっくりと近づいた。
「…なんでここがわかったの?」
「指輪。……ずっと外さずつけててくれてたんだな。」
「あ…これ。」
私は左手の薬指を撫でた。
外せるはずがなかった。
向こうの世界から持ってきた唯一のものだ。
「めぐみ。遅くなってごめん。」
「…ふる…やさん。」
顔をぐしゃぐしゃに歪めながらぼろぼろと流れる涙が出て止まらない。
「全部片付くのに時間がかかった。」
私は声を出すことができず、首を振った。
「めぐみが安心して暮らせるようにしたかったんだ。大丈夫。小塚のことも全部終わったよ。上層部に頼んで、めぐみがこっちに帰って来れるよう許可ももらって、薬もくすねてきた。」
「…ごめ…なさっ…私が…」
貝山のことも、こっちに勝手に帰ってきたのも全部私がやったことだ。
鼻水と涙でぐちゃぐちゃな私を降谷さんはぎゅっと力強く抱きしめてくれた。
「めぐみ。いいんだ。生きてくれてた。大切な人が生きてくれてた。たったそれだけで本当に充分なんだ。めぐみは約束を守ってくれた。僕がこれ以上失うと耐えられないと言った時、君は居なくならないと言って、そしてこうやって生きてくれてた。ありがとう。」
息ができないくらい強く強く私を抱きしめる降谷さんの背中に私も手を回し抱きしめた。
「降谷さん…好き。大好き。」
「あぁ、僕もだ。ーー愛してる。帰ろう。僕たちの世界に。」
「…うんっ!」
私は涙をぬぐうと、顔をあげ降谷さんの首に手を回し、小さな喫茶店の中で優しいキスをした。
寒い寒い雪の降る日。
私はきっと今日という日を忘れないだろう。