第131章 最終章【コーヒーはミルクだけ】
とても小さな仕事場。
古いビルの一階にたった10席ほどの古い喫茶店。
前のオーナーが年でもう閉めるんだというのを聞きつけ、譲ってもらったのだ。
ポアロでの仕事が忘れられなくて、一人で今日も朝早くからモーニングの準備をしていた。
そんなに繁盛はしていないけれど、前からの常連さんもいるし、こだわりのハムサンド目当てにお客さんはまちまちと来てくれているから、生きて行くには充分だった。
安室さんと一緒に考案したハムサンド。
蒸し器の準備をして、味噌とマヨネーズのソースを作る。
毎朝一人で全部やっている。
カランカラン
と、ベルが鳴るようにしたのもこだわりだ。
ポアロと同じベルを探すのに苦労した。
「いらっしゃいませ。」
「おはようございます。」
私は手元から顔を上げ、お客さんの顔を見て、目を見開いた。
「モーニングいただけますか?」
「…っ!……はい。」
手が震えるのを我慢しながら、私はハムサンドを作った。
カウンターに座ったお客さんは私の手元を見つめた。
「モーニングはトーストではないんですか?」
「ここのお店はハムサンドが特におすすめなんです。私の恋人が考えたんですよ?とっても美味しいですから是非。」
「ほぉー。それは楽しみです。」
私は涙がこぼれないように、ぐっと袖でぬぐい、ハムサンドをお客さんの前に置いた。
「コーヒーはホットでいいですか?」
「えぇ。」
「砂糖なし。」
「えぇ。」
「ミルク入り。」
「えぇ。よく覚えてますね。」
「もちろん。大好きな人のことだから。」
ポロポロと流れる涙をそのままに私はお客さんに微笑みかけた。