第127章 ぬくもり
しばらくすると降谷さんは私の方に笑顔で帰ってきて玄関で靴を脱いだ。
「誰もいなかったよ。大丈夫。」
「よかった…。」
すると降谷さんは私の耳元に口を寄せてきた。
「侵入した形跡はある。盗聴の恐れがあるから『安室』で。」
こそっと耳打ちしてきたので私は何度も頷いた。
誰か…、入ったのか、私の部屋に。
私はぐるり自分の部屋を見渡した。
朝とあまり変わらない気もするけれど、知らない人が漁っていったのだと思ったらなんだか自分の部屋じゃないような変な気分だった。
「ーー…本当になにもないんだな。」
「えへへ、うん。」
どこかの事務所のような剥き出しのコンクリートの壁と床に薄いカーペットと小さく固そうなベッド。
ポアロにあるような小さな冷蔵庫にコップお皿が一つずつ。
お箸は百均のたくさん入った割り箸を使って、使い捨てだ。
ゴミ袋が一つあって全部それに捨てていた。
服は段ボールの中に数着畳んで入れてて、コートが一つ壁にかかっているだけだった。
「もし、見つかりそうになったら、すぐ逃げられるように。」
私は大きな袋に服や必要なものを全部突っ込んでいった。
袋2つで充分だろう。
「…めぐみ。」
切なそうに私を呼んで、安室さんは私を抱きしめた。
「安室さん?」
「もう、1人じゃないから。1人にさせないから。」
「ふふ。大丈夫。もう5年だもん。慣れちゃった。」
「そんなはずない。」
私は安室さんに抱きしめられながら、隙間から見える自分のベッドが目に入った。
マットレスもない、固く冷たい布団。
貰ったものだ。
「…友達も家族も知ってる場所も何もかも無くなって、泣いてた日もあったの。」
「…。」
「でもね、今はみんながいる。この前のハロウィンパーティーはすっごく楽しかった。安室さんの仕事仲間の人たちにも良くして貰って。恋敵もいる。…そしてあなたも。」
風見さんにローラさん。
盗聴されてる可能性があるから名前は出せなかったけれど、安室さんになら伝わってるだろう。
「…めぐみ。」
「今とっても幸せだよ。ありがとう。」
この部屋ともしばらくさよならだ。
私はぐっと胸が詰まる思いがして安室さんを強く抱きしめ返した。