第111章 笑顔で
あれから、お客さんが多く入って手伝いに立ち上がって、オモテに立とうとしたが、安室さんは許してくれなかった。
「何度も傷口が開いて長引くより、早く治しましょう。ね?」
「…はい。すみません。」
「無茶はダメですよ。」
私がいつも安室さんに向けて言っていたことだ。
…わざとだろうか。
「はい…、無茶しません。ありがとう。」
「いいえ。」
にこっと笑う安室さんの顔が今はわたしには耐えられなかった。
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数日後、だいぶん普通に歩けるようになったころ、裏のゴミ置き場に来た。
カラスや野良猫に悪戯されないように、大きなゴミ箱の蓋をグッと押さえ込んでいると、あのヒールの音が聞こえてきた。
「こんにちは。」
振り向くと黒い黒髪のポニーテール。
ローラさんだ。
「…。」
「これを彼に渡してもらえますか?」
小さな紙袋。
なんだろうかーー…。
「帽子とTシャツです。汚れてしまったので。」
「…。」
差し出されている紙袋を見つめた。
「嫌です。それは貴方の仕事でしょう。」
「…私達は表立って会うことができないんです。裏で会うことしか。」
裏のーー安室さんではなく本当の彼、降谷さんには会ってると言いたいのか。
私はローラさんの目を見つめた。
「それでも、今までコータさんも風見さんも私にそう言った仕事を頼んだことも会いにきたこともありません。」
「…。」
「“公安”だの“一般人”だと言うのであれば、公安らしく彼にあったらいかがですか。」
背の高いローラさんにじっと見下ろされ、私も彼女から目を逸らさなかった。
「そうですね。ではそうします。…あの人、昨日も腕を切られて怪我をしていたからーー…新しい服が必要かと思ったんです。」
「…怪我。」
「あぁ、大丈夫ですよ。ちゃんと手当は終わってますので。」
では、お邪魔しました。と、言ってローラさんはまたどこかに歩いて行った。
胸がズキズキと痛い。
ーー降谷さんに会いたい。