第98章 遭遇
「女。」
「はい。」
「客の会話は外で漏らすなよ。」
「もちろんでございます。ご安心ください。」
初めて正面で向き合って会話をした。
心臓の音がやばい。
目の前がくらくらする。
あの時の侵入した女だとバレていないのだろうか。
すっとジンは私から視線をそらしたので、私は立ち上がりケビンさんの横に戻った。
「…あのケビンさん?」
こそりとケビンさんにしか聞こえないように声をかけた。
「…なんだ。」
「今はなんとお呼びすればいいですか?」
『ケビン』は、偽名でもしかしたらジンの前では呼ばない方がいいかもしれない。
ジンからは確か『コルン』と呼ばれていた。
「…別になんでも。ケビンでいい。」
「はい、わかりました。そのままケビンさんと呼びますね。」
「で、ここでの収穫はどうだ。」
ジンの置いたグラスがカランと音を立てた。
「客一人。日本人。眼鏡かけて裕福そうなやつ。怪しい。今日まだいない。」
「お前にしてはちゃんと見てるじゃねぇか。」
「…。」
ケビンさんはジンに言われ、ふんっと言うと、わたしにお酒を要求した。
邪魔しないように黙って酒を作っていく。
「なぁに、俺たちの邪魔をする奴はすぐに消すさ。」
ぐいっと飲み干し、グラスをダンっと置くとジンは立ち上がった。
「それだけじゃ、まだ何も掴めてねぇ。もっと情報が必要だ。」
「わかった。」
挨拶もなしに、長い髪を靡かせカーテンから出て行くジン。
私は何も言わずに去っていった先を唖然と見つめていた。
「緊張したか。」
「えっ、あ…ごめんなさい。失礼でしたよね。」
「あいつ、いつもそう。」
「そうなんですね。雰囲気のある方でしたね。」
ケビンさんはかけていたサングラスをとり、再び服の内ポケットに戻した。
サングラスをかけて初めて気づいた。
何かどこかのポスターか、映像かで見たことがある。
銃を構えてる姿ーー…
『コルン』と呼ばれていたケビンさんは、たぶん黒の組織のメンバーだ。
そんなの…そんなの知らない。知らなかった。