第8章 心の休む場所
正面から抱きしめられ私は腕の中でもがいた。
「ちょっ!安室さん!ダメですってば!」
「耳元で叫ばないで。」
「ダメです。め。離して。」
「め。って…」
「こういうのは順番が大事ですよ。順序。まずは…」
「まずは?」
えーっと、なんだ?告白?いや、デートのお誘い?
「あーーっと…交換日記でもしますか?」
「は?」
拍子抜けしたのか、力が抜けた安室さんの腕から脱出すると、急いで距離を置いた。
これ以上安室さんの近くいると、心臓が爆発してしまいそうだった。
「まぁ冗談ですけど。」
安室さんが交換日記を書く姿、想像しただけでも笑えるし、安室さんに対して日記を書くなんて私自身絶対に無理だ。
「めぐみさんに、男性経験がないのかと思ってしまいそうでした。」
「いくつだと思ってるんですか。まぁ、経験値は安室さんほどではありませんよ。そんなことより、せっかくのコーヒーが…。」
豆をドリップしようと布に入れたのに、お湯も入れずそのまま。酸化してしまって味は落ちただろう。
「いただいてもいいですか?」
「入れ直しますから、待ってください。」
カチカチという時計の針の音。
しゅーというお湯が沸く音。
コポコポというドリップされる音。
そして広がるコーヒーの香り。
コトリとカップを安室さんの前に置いた。
そのコーヒーをそっとひと口吸い込むようにふくみ、味わい飲み込む安室さん。
「はぁ。美味しい。」
ほっとした。
マスター以外にこのネルコーヒーを出すのは初めてだったから、緊張した。
「めぐみさん、横に座りませんか?」
「いいです。大丈夫です。」
ソファに座ってコーヒーを飲む安室さんは自分の横をポンポンと叩いて誘ってきたが、断固拒否させてもらった。
もう今日はお腹いっぱいである。
イケメン摂取はもういい。