第90章 休暇
梓さんがトイレ掃除に行ったのを見計らって、私はそっと安室さんに近づいた。
「いいんですか…せっかくの休暇。」
「何がです?」
「公安の方がお休みってことでしょ?」
「えぇ。」
「それを…旅行なんかで潰しちゃって…」
「初めてなんですよ。こんなに長い休暇。」
こんなに長いって…たった3日。
いままでどんな生活…
「先日の事件の功績で…って。部下を五人も一気に失ってその労いもあるのかもしれない。潜伏先のことも考えずただ休んでこいって上からの命令さ。」
「…。」
なんとも言えない表情でふっと一度だけ笑う安室さん。
「潜入ではあるんですが、学生以来なんですよ。温泉。」
「…そうなんですか?」
「よかったら付き合ってください。」
最後爽やかに笑って私の頭をぽんぽんと叩いた。
「…休ませますっ!楽しませますっ!私もそんなに温泉知らないけど…私が安室さんを癒すから!」
「めぐみさんが癒してくれんですか?いやー楽しみだなー。」
「温泉が癒すんです!それをコーディネートするのが私なのです!」
「ふふ、はいはい。」
私の頭から手を下ろす安室さんの手首にふと目がいった。
昨日の赤い手鎖の跡がうっすらまだ残っているーー。
「あ、あの…包帯巻いた方が…」
「ん?普通の人はこれが手錠のあとだとはわからないと思いますよ。」
…いやでも梓さんは…経験者っ!
「朝、風見にはバレたが。事件に巻き込まれたと思ったようだ。くく。昨日途中でタオルが取れたからな。」
「風見さんにっ!」
…どうしよう。梓さんにはバレるよって伝えてると、なんで?って事になるし。
そうなると、安室さんのことだからすぐ梓さんもそういう事してるって感づくだろう。
「…接客するし…やっぱり包帯巻かない?」
「そう?」
「私も…その…見てると昨日の貴方を思い出しちゃう…」
「…。こんなところで誘うな。」
誘ってないっ!
私は赤い顔を隠すように救急セットを取りに行った。