第8章 心の休む場所
振り払うことは出来なくてもやっぱり恥ずかしいし、恋人でもない人とって思うと、そろそろ離して欲しかった。
前に回っている安室さんの腕をもって離そうとすると、それは案外すんなりと離れた。
ほっとして、体の力が抜けると今度は腰のあたりに手が来てグルリと身体を前に回された。
「え?」
ドンっとコーヒーを入れていたカウンターに押し付けてられ、至近距離に安室さんの顔が迫っていた。
「まっ、まって…」
「すみません。待てません。」
「は?え? きゃ」
後頭部に安室さんの手が回ると、口を頬に押し付けられた。
ほっぺに…キス!?
とっさのことで目を開けていたが、綺麗な肌の安室さんにやっと現状を把握できて、恥ずかしくて目を閉じた。
そんなに長い間唇を押しつけられていたわけではなかったが、離れた後も安室さんの左手はわたしの腰にあり、右手は私の耳のあたりの髪の毛をサラサラと触っていた。
あまりの出来事に頭がついていかず、私の心臓の音しか聞こえずに、目は安室さんを直視する事なんて出来なくて、視線はさまよっていた。
「すみません、めぐみさん。貴方の横はあまりに居心地が良くて…。いつのまにか貴方に惹かれていました。」
あれ?私安室さんの嫌味ばっかり言ってませんでしたっけ?
マゾなの?
シフト早く決めろって言ったり、怪我ばっかすんなって怪我したところ殴ったり、サボんなって怒ったり、イケメンムカつくって言ったり…
あ、もしかして、周りの女性は安室さんにそんな嫌味を言うようは人がいなくて私が物珍しい?
でも、やっぱり安室さんから好かれる要素が私には見当がつかない。
私は安室さんを見る事ができず、安室さんが付けてる紐のネクタイ?なんだろ、私のおじいちゃんがつけてたなこれ。お洒落な首飾りのようなものを見ることしか出来なかった。