第80章 ばったりと
怪我がないならよかった。と、コータさんは私からすぐ離れていった。
『電話が鳴ってとるふりをしてください。』
ゴクリ。
急に緊張が走る。
返事をしたところで風見さんには聞こえないから、私は黙ってカバンから携帯を取り出し耳に当てた。
『降谷さんは今他の事案で潜入中です。横にいるのはあなたのよく知る榎本梓さんではありません。』
…あんなに似てるのに。
梓さんにしか見えない。
『しかし目があってしまった時点で、急に引き返すと逆に不自然で怪しまれる可能性があります。』
あの梓さんは…じゃあ誰だというのだろうか。
『電話でにこやかに話をしている風を装いつつ、手を振りそのまま電話で話しながら遠ざかってください。』
『榎本梓さんに変装している女はかなり危険な女です。榎本さんに変装している時点で同じ店員であるあなたのことをすでに知っている可能性もあります。絶対に接触しないように。』
ドキドキドキドキ…
「うん!…そうだね!うん。…わかった!うんうん…ははっ、私もそう思ってたんだ。」
適当に電話をしてるかのように装う。
安室さんと横の女と目が合い、手を振るとスッと視線を外した。
「うん、おっけー!じゃああとで遊ぼうよ。今マスター一人に任せてるし私は仕事終わったら向かうよ。え?今?今はまだ外だよー。」
こそこそと安室さんと女が話をしているのがわかったが、そちらを見てはダメだと言い聞かせ、私はその場を後にした。
角を曲がり、息を吐く…。
『お疲れ様でした、めぐみさん。』
はぁはぁはぁと、荒くなる呼吸。
私はなんてタイミングが悪いんだろう。
もう少し離れようと早足で歩いていくと、前からコータさんが来てくれた。