第76章 カップ
目をぱちくりとさせ、私からのキスを受け入れてくれた。
ちゅっと音を立ててはなれる。
「…ごめんなさい。こんなになるまでお仕事してるのに…私、降谷さんが怒ってるって思ってて…だから、私にメールをしてくれないし、私に会いたくないからポアロ休んでるんだって勘違いしてた。ごめんなさい…こんな……」
こんなになるまで働いてる人に…私はなんてことを。
髪の毛はぼろぼろだし、服もよく見たらシワシワだ。
「それて慌てて来たくれた?」
「…うん。」
「ポアロのエプロンつけたまま。」
「……本当だ。」
気付かなかった。
「めぐみからそうやってキスされるとは思わなかった。」
「…だって、ごめん……ごめんなさい。」
「いいって、もう、謝らないで。俺が怒らせた。勘違いさせた。忙しくて、めぐみに連絡できなかったのも悪かった。」
そう言って、降谷さんは机の下に手を入れた。
机の上に出されたのは小さな紙袋。
「今の案件が落ち着いたらこれをめぐみに渡そうと思ってた。」
「何?」
「開けてみて。」
隣の席に座らせてもらって、紙袋から箱を取り出し、包装紙を開けた。
ガサガサと取り出しのは、青や紫の花びらが描かれたティーカップだった。
「これ…。」
「そ、あの時の。割れてしまったから、めぐみっぽいやつを、めぐみの事を考えながら選んだやつを、降谷として僕からちゃんと渡したかった。」
「…覚えてたんだ。」
「当たり前だろ。遅くなったけど。」
ソーサーとセットになっていて、綺麗でありながらも可愛くもあった。
じーんと胸が熱くなる。
机に肘を置いてこちらを見ている降谷さん。
私はティーカップを,箱に戻し、降谷さんの方を見た。
コロコロと転がる椅子を降谷さんの方に近づけ、膝に手を置いた。
「プレゼント、ありがとう…あの、お店で使ってお客さんに使われるより、パソコンのところにおいて、私専用で使わせてもらうね。」
「うん。」
「あの…」
「ん?」
「ありがとう、零さん。」
ゴンっ!!
肘を置いていた降谷さんはおでこを机に叩きつけた。