第34章 遠ざかる
私は足元の割れたカップをみた。
ブルーのカップ。
私は熱くなって怒鳴る男の元に行き、正面に立った。
足の甲を踏みつけ箒の先を顎の下にピタリと当てた。
「帰れ。」
下からじっと睨みつける。
「……え…あっ……はい。」
返事を確認して、私は男の足の甲から退けた。
男達は荷物をかき集めるとさっさと出ていった。
「めぐみさん!すっごーい!何言ったんですか!?」
蘭ちゃんが私の元に来て私の手を握った。
「何って…小さい声で帰ってってお願いしただけですよ。あ、カップ割れてるから危ないですよ!退けて退けて!」
「…お願い?足踏んで『帰れ』って聞こえたんだけど…」ぽそりとつぶやくコナンくんに「そんなことない、空耳だ」と伝えながら、箒で割れたカップを片付けた。
怖かったねー!私のせいでごめんー!などと女子高生たちが話しているのを背に、私はカップを片付けようとバックヤード下がった。
カチャリ……
カップを眺めながら袋に入れていく。
「思い出の品だったんですか?」
「…え?」
振り向くと安室さんが立っていた。
「カップ。ツラそうにされてます。」
「…あぁ、はい。私がポアロに来た時にマスターがコーヒーの練習用にって買ってくれたんです。ちょうどお店に出すようにも欲しいからって。私のってわけではないんですけどね、思い入れが少し…」
「そうだったですね。…すみません。」
「何で安室さんが謝るんです?」
「僕の対応の仕方が悪かったです。」
「最初から見てたわけではないけど、安室さんのことだから園子ちゃんをためでしょう?じゃあ何も悪くないです。…カップは仕方ないです。でも、ちょっとイラッとしてあの人に八つ当たりしちゃった。」
へらっと笑うと安室さんは眉を寄せながらも微笑んでくれた。
「たった三文字と眼力で服従させるのは、さすがは総長って感じで迫力がありましたよ。」
「そんなものはないっ!しー!みんなに聞こえちゃうでしょう!」
「カップ…また今度僕からプレゼントさせてください。」
「え?いいです!気にしないで?」
「マスターからの思い出の品には及びませんが、貴方に気に入ってもらえるよう心を込めて選びますから。」
「……ありがとう。安室さんのセンス楽しみにしてます。」
「はい。」