第30章 染まる
夜中の暗闇を街灯だけが照らす海岸線。
バイクを走らせながらインカム越しに安室さんが言った。
「めぐみ。お前だけだよ。喫茶店の安室。探偵の安室。そうじゃない本当の普通の僕になるのは。」
「…そうなの?」
「僕を心配してくれて、労ってくれて、応援してくれて、何かあったら笑ってくれる。無性に疲れた時、真っ先に思い浮かぶのがいつもめぐみの顔だった。そしたらまた頑張れる気がするんだ。」
照れ臭くて、私は安室さんのお腹に回した腕に力を入れた。
「めぐみがどんな僕でも受け入れてくれてるからだろうな。そんなめぐみに甘えてばかりだ。それに、これからもきっと無理を言うと思う。」
「どんと来いですよ。」
「ははっさすが総長。もしかしたら総長だったからこそいろんな人間を包み込む包容力ができたのかもな。」
「あー、変な子たしかに多かった。みんな可愛い奴らだったよ。」
「あー、今すぐもう一度抱きしめたいな…」
インカム越しにダイレクトに響く声。
さっき砂浜で抱擁もキスもしたじゃないか。
「こ、これで我慢して。」
後ろからさっきより強めに腕の力を強めた。
「だめ、全然足りない。ヘルメットのせいであまりお前を感じられない。」
「…うぅ」
「近くにないかな…この辺ならありそうと思ってきたんだが。あ、あったあった。」
そういうと、安室さんはバイクのハンドルをぐるっと曲げ、急に曲がった。
「どこいくのー?」
「前見えてるだろ。アレ。」
「…?」
私はもそもそと安室さんの背中から顔を出して前を見た。
「っ!!!あ、あれ!え!?」
煌々と照らされている外観。
どう見ても…そういうホテル。
「…?だめか?こんな時間にこんな田舎にいいホテル入れないだろ。もうラブホテルくらいしか。」
「ひぇっ!もう朝までバイク走らせるのかと!!」
「朝までってお前どんだけ走り屋だよ。さすがにもう僕はいいよ。そんなことより休みたい。」
…休みたい。なんて言われたらもうそうするしか無くなるじゃない。ズルいっ!
「あっ!だから運転するっていったな!」
「…。」
「無視しないでよ!」