第29章 真っ白
一人腹を抱えて笑うと安室さんに背を向け、海岸方面へと歩きだした。
「あーおっかしい。あ、めぐみ待って。先行くなって。」
「しらない。もう一人で笑ってて。」
「スピード違反に信号無視に器物破損に…くっ…あっはは!何やってんだろーな僕たち!」
「そんな悪いことしてませんよ…」
「まぁ、僕はしてないけど。」
「…むむっ」
「『おとといきやがれ』……ぶっ!永遠に笑える。」
ひとしきり笑って海岸線の砂浜にまで来たら安室さんが私の頭をぐしゃりと撫でてくれた。
「僕がバカにされたから怒ってくれたんだろ?ありがとう。」
「…。だって何もできないって…。安室さんはそんなことない。」
「あんな男になんと思われようと気にならないよ。」
「……でも、今回は何も出来なかった。完全に僕の負けだった。」
海をながめる安室さんの横顔を見上げた。今日行っていた大きなヤマのことだろうか。
眉を寄せ、悔しそうな表情だ。
「勝負だったの?」
「まぁ、勝負みたいなもんさ。死んでたと思ってた男が生きてた。それを証明しようとしたんだがな。また逃げられたよ。」
私の頭にはふと赤井秀一の顔が浮かんだ。
「死んだと思ってた…?」
「あぁ。」
「死んでた思ってたのに生きてたって何か…よかったんじゃないの…?」
「…ん…まぁ。」
「生きてるんならまた勝負できますね!次は完膚なきまでに打ちのめしましょう!」
「……。」
安室さんは目をパチクリとさせ私を見下ろした。
「次はあのパンチです!銀行強盗から助けてくれた時のボクシングみたいなパンチ!あれくらわせましょう!」
「…殴り合いの喧嘩じゃないんだから。」
「え?あ、そうか。勝負っていうから。」
「…めぐみ。ありがとう。」
「ん?何が?」
安室さんは私に手を伸ばし、頬を撫でた。
「抱きしめていい?」
「…っ、そ…!今まで勝手にしてたくせに、急に許可とるとか!」
「…だめだなー。僕はめぐみに弱い……」
へにゃっと笑う安室さんの表情を見てるとなんだかわたしまで切なくなった。
私は近くにあった岩の上に立ち、安室さんより少しだけ視線を高くした。
「ん。仕方ないな。」
両手を広げて安室さんをチラリと見た。自分でやって恥ずかしい。
「何だそれ。」
そう言って安室さんは私の胸に顔を押し付けた。