第26章 あの日の夜に
「その男のせいだな…あんな大人しいキミが…こんな男のせいで…」
「やめてください。迷惑です。」
はっきりと言った方が相手に伝わると思って、彼の目を見てそう言うと、昴さんが私の口に手をやった。
「めぐみさん。ダメです。あまり刺激を与えてはいけません。」
「…そうなの?」
「くそっくそっくそっ!!やっぱりその男のせいだ!!近づくな!めぐみから離れろっ!!!」
男は大声をあげ、カバンから刺身包丁のような細長く刃物を取り出した。
「ちょっ!」
昴さんの言う通りだった。男は支離滅裂なことを口走りながら包丁を振り回し始めた。
「めぐみ!!めぐみ!!死のう!一緒に…!!」
…いや、なんで!?
喧嘩なら慣れてるから応戦しようとしたが、昴さんがそれを許してくれなかった。
「危ないから下がっててください。」
私を背中に回すと、見たこともない構えをした。
何かの格闘技…?だろうか。
脚で払って包丁を地面に転がす。
間髪入れず男の顔に1発食らわすと、たったそれだけで男は地面に平伏した。
…よ、弱い。
そして、昴さんは強かった。
「ふぅ。大丈夫ですか?」
「はい。何ともないです。ごめんなさい…私がはっきり言い過ぎました…。」
「仕方ないですよ。さ、警察に連絡しますか。」
そ、それはまずい。
免許偽装、戸籍なしがバレる可能性がある…!
私があわあわとどうにか回避できないかと考えを巡らせていると、昴さんは転がっていった包丁をハンカチで拾い上げていた。
その向こうにはゆらりと立ち上がる男。
カバンからもう一本包丁を取り出した。
2本持っていたようだ。
私は、工事現場の足場に使われているような鉄パイプを拾い上げた。
喧嘩の鉄則はナイフなんてブツは使わない。
殺しなんて最悪だ。
相手を傷み付け、わからせたらいい。自分が上なんだと。
「…めぐみさんっ!」
「おらぁぁっっ!!!」
ナイフを振り翳した男の脇腹を迷いなく鉄パイプでフルスイングしてやった。
「ぎゃっおっっ!!」
絞り出されたような男の悲鳴が聞こえた。