第26章 あの日の夜に
昴さんには明確な目的があるのだろうか、私の腰に手を回したまま歩き続きた。
「あの…どこまで。」
「恐らくそろそろ話しかけてくるのではないかと思ってます。やはり目的は僕ではなくめぐみさんのようなので。」
「私?…なんだろ。こっちから話しかけてみます?」
「…君は……勇気と無謀は違う。」
「…無謀かな。」
「相手がわからない限り、きちんと最悪を想定してからじゃないといけませんよ。」
「わかりました。」
しばらく歩き、街の喧騒を抜けたあたりで、昴さんが立ち止まった。
後ろを振り向くと、すぐ近くには先ほどの男性。
「っ!!」
こんなに近くに来ていたなんて気付かなかった。
俯き、ぼーーーっとしていて不気味だった。
「何か御用ですか?」
昴さんはぐっとわたしの腰の手に力を込め引き寄せ、そう言った。
「…めぐみ…」
私の名前を知っているようだった。
ぽそりとガサガサ声で名前を呼ばれ、私は怖くて昴さんにしがみついた。
「……僕の…女神。」
「…!?」
め、めがみ!?
いや、めがねかな?聞き間違えかな?
だって、こんな地味メガネのほぼノーメイクだよ!?
「あの時美しかったーー…クリスマス。」
クリスマス…?
「ど、どなたですか?」
「めぐみ…キミのピアノは素晴らしい…」
「クリスマス…ピアノ…貴方もしかして…」
「心当たりが?」
「…お店でピアノを弾いたんです。」
マスターの夜のバーのお店で、代理で生演奏をした。
ピアノは昔習ったことがあったし、とても簡単な演奏だったから…
メインはサックスやジャズを歌っていたから、私は本当にサポート程度に二曲ほど…。
「キミのあの時の美しい姿が忘れられない。好きなんだ。めぐみ…!あんな家に住んでいようと、あんな喫茶店で働いていようと、どんなにキミも僕のモノにしたい…!」
ひぇ…っ!
鳥肌がたった。
家も仕事場も全部バレてしまってる…!
今まで全然気づかなかった。
「めぐみさん、どうしたいですか?警察に…」
「貴方のものにはならない。ごめんなさい。無理です。」
昴さんの言葉を遮り、私は目の前男性にはっきりそう言った。