第26章 あの日の夜に
フラフラとしている男の右手には未だ包丁が握られている。
「そいつをさっさと放しやがれっ!!」
再び鉄パイプを振り上げ、包丁を遠くに飛ばすと、男の顔面を足の裏で蹴飛ばした。
「くぎゃっ!」
「おい、てめぇの幻想をあたしに押し付けんな。」
「あ……お……」
倒れた男の顔面を踏みつけ、鉄パイプでコツンコツンと腹の辺りを突く。
「警察には言わねぇでやるからこんな真似2度とすんなよ。」
「…あ…あっ…はい…」
足を退け、鉄パイプの先で男の頬を撫でた。
「次はねぇぞ。いいな?」
「ひっ…!」
「…悪かったな、てめぇの女神になれなくて。」
「うっ…うぅ……」
男はカバンを抱きしめるようにもつと、走って逃げていった。
「はっ!!!」
しまった…!す、すばるさんがいるんだった…!
つい、喧嘩の癖がっ!!
鉄パイプをぽいっと放り投げ、私は後ろをゆっくりと振り返ると、昴さんはうつむき首元を押さえていた。
「あっ…えっと…これは……」
怖がってる…?笑ってる…?
どっちだろうか…?
昴さんはまったく動かない。
「…昴さん?」
よくよく見ると、昴さんの顔を傷が…できて………いや、傷
?
顔の皮が…ぺろりととれて…る…!!
「ぎゃああぁ!すすすっすばっ!!むっ!!」
驚いて叫んでしまったら、昴さんに口を手で塞がれた。
「まったく。キミはお転婆だな。」
聞こえてきた声は昴さんの声ではなかった。
「むむっ!」
塞がれた状態のまま私は驚きの声をあげた。
「頼むから静かにしてくれ。いいな?」
誰?この人は一体だれ…?
怖い…!
私は震えながら何度も頷いた。
さっきの鉄パイプを放り投げずに持っておけばよかった。
昴さんのフリをしているこの人はいつから昴さんのフリをしているのだろうか…。
「キミの振り回した棒が機械に当たり壊れ、キミが投げ飛ばした包丁で顔が切れたではないか。」
「…だ、誰…?昴さんをどこにやったの?」
「昴だよ。俺は沖矢昴。どこも行ったりしない。めぐみ。君が今みたいに裏の顔があるように俺にも裏の顔があるということ。それだけだ。」