第26章 あの日の夜に
振り向いたけれど、テーブル席の人もだれもスマホなんて見ておらず、皆普通に食事やお酒を愉しんでいるようだった。
料理の写真を撮ったりする人だっているよねーー…。
「何か気になることでも?」
「いえ、何も。ごめんなさい。」
気のせいだろうと、机の甘いお酒のコップについた水滴を指で拭っていると、昴さんはさらにグッと近づいてわたしの耳元で囁いた。
「あとでトイレ行くふりをしてみてください。左後ろにいる黒いコートを着た男性…。」
「…え?」
「今は見ないで。あとで。見覚えがあるか…。」
「は…はい。」
私はポーチを手に取ると、トイレに立った。
昴さんに会釈をして、左回りでーー。
小さな2人掛け用のテーブルに1人で座る黒いコートの男性。
男性は俯いてはっきりとした顔は見えなかったが、うっすらとした髭をはやし、髪の毛はボサボサ、座ってはいるがきっと背は高いだろう。
トイレから帰り、昴さんの隣に座ると昴さんは再び小さな声でも聞こえるように近づいた。
「外に出ましょう。」
「…はい。」
さりげなく支払いを全てしてくれていて、私の腰に手をやりしばらく歩いた。
「あ、あの…?」
「知ってる男性でしたか?」
「いえ…たぶん知らない…かな。」
駅を通り過ぎ、どんどん進んでいく昴さん。
帰るタイミング逃した。
「うむ、めぐみさんの関係じゃない?先程写真を撮られました。その男性に。そして、今は後ろをついてきてます。」
「…えぇ!?」
「しー。」
「あ、ごめんなさい。」
今は早く帰って色々考えたいのに、多くのことが起こりすぎて頭がパンクしそうだった。
沖矢昴という人物は私から安室透の情報が受け取りたいのか。
安室透の名前はバーボンで黒の組織なのか。
後ろから付いてくる男性は何者なのか。
「…うぅ、頭痛い。」
「大丈夫ですか?」
「今すぐ叫びたいです。」
あぁあぁー!もうっ!!