第39章 甘えさせ上手と言われたい ✳︎✳︎
「どうだろうか」
「すっごく気分上がるし、すっごく安心します。たまに私、後ろからこうする時があると思うんですけど…杏寿郎さんを包み込みたいなあとも考えるんです」
あなたは私より体が大きいから、なかなかそれは出来ないけれども。
そんな事を言いながら、七瀬が胸元に回している俺の両腕をそっと掴んだ。
ぎゅうと更に抱きしめ、彼女の右頬に一つ口付けを贈ると、また七瀬が口元に笑みを宿す。
「君に包まれていると感じる事はあるぞ!」
「え? そんな事ありましたっけ?」
後ろを向き、俺を見上げた七瀬は全く思いつかない。そんな顔をしている。彼女の腹部に掌を移動させ「ここにはいっている時に」と伝えてみれば、七瀬の体が一瞬固まってしまった。
「そ? それって……あの…」
「ああ、君が今頭に思い浮かべている事で合っているな」
「………」
それから七瀬はしばらく無言になった。
情交時の事なので、流石に少しだけ言葉を選んだが、これはよもや失敗してしまったか?
さてどうやって彼女の気持ちを落ち着かせよう。
むむむ、と思案を始めると眉間にシワが寄るのが己でもよくわかる。そこへ「杏寿郎さん」と七瀬から声がかかった。
「すまない! その…言葉を選んだつもりだったが、俺はどうもこのあたりの塩梅が上手くない」
「あ、違いますよ。確かに凄く恥ずかしかったけど…」
あなたがはいって来てくれると、いつも気持ちが昂るけど心地よいし安心もする。だから嬉しいのだと小さいが、ハッキリとした言葉で俺に伝えてくれた。
「そうか、ならば安心だ。では早速!」
「あ、今は! 今はまだダメ、です…もう少しこの状態を満喫させて下さい」
「む、承知した…」
やはり自分は気が早くなってしまうな。顎を七瀬の頭に乗せると下から聞こえるのは彼女が小さく笑う声だ。