第35章 心炎八雲、今宵も甘えて混ざりあって ✳︎✳︎
「そのような理由から玖ノ型を出す要領で放った所、あの通り形になったと。そう言うわけだ!応用から基礎に戻る。段階を一つ落としたと言えば良いだろうか」
「……本当に杏寿郎さんは凄いとしか言えません。流石です…」
こう言う所、やっぱり尊敬しちゃう。
あ、そうだ。私も彼を労いたい! 腰の柔軟を切りあげ、杏寿郎さんの元に駆け寄り ——
「昨日忘れてた事を今、思い出しました。いつものあれ、やっても良いですか?」
いつものあれ……それは私が稽古終わりに施している爪の指圧だ。
「ああ、では頼む」
私は彼と縁側に向かい、隣り合って座ると、杏寿郎さんの右手を自分の左手に乗せる。
「始めますね」と声をかけ、グッ…グッ…と指圧が開始していった。
「君の指圧は本当に丁度よい塩梅だ」
「ふふ、嬉しいお言葉ありがとうございます。炎の呼吸はここから放たれますからね。いつでも思い通りに出来ますように…って思いを込めて押してます」
なんと言っても炎柱が放つ呼吸だ。両手の指圧が全て終わると、ほうと息をつく彼。
「はい、これで終了です!」
「では次は俺が君に」
「ありがとうございます…ではよろしくお願いします」
自分の右手を彼の左手の上に重ね、大事な事をまず告げる。
「薬指はなしにして下さいね」
「……承知した」
あ、杏寿郎さん苦笑いした。
良かった〜先に言っておいて。今指圧されたら大変だもの。
「杏寿郎さんがしてくれる指圧も、ちょうど良い刺激です」
「そうか?」
「はい!」
今夜も互いに任務。
槇寿郎さん、千寿郎くんがいるこの家に必ず戻る。
もちろん杏寿郎さんの元にも必ず戻って来る。彼も無事に帰って来る。
そう信じて、私達は今宵の任務に向けて準備を始めた。