第35章 心炎八雲、今宵も甘えて混ざりあって ✳︎✳︎
右耳にちうと一つ柔らかな雨を落とすと、ふるっと体を揺らす君が愛おしい。
「たくさん…触れて…下さい……」
「やはり素直な君は、たまらなく可愛いな」
……その言葉、待っていた。
再び己の両手を動かし始めると、七瀬からこぼれて来るのは甘い吐息と艶がある声だ。
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彼女はその後、俺の手の動きだけで一度達してしまった。
よもやの出来事で少し面食らったが、気分は悪くない。今は布団に隣り合って寄り添っている所だ。
「杏寿郎さんの意地悪……」
ブスッとした顔をしながら、彼女は俺に抱きついて来た。
この顔がまた可愛らしく、自分の加虐心をくすぐるのだが……
「俺は七瀬にそう言って貰うのが好みのようだ」
この言葉だけにしておいた。やりすぎは流石に良くないからな!
恋人の顎を柔らかく掴むと同時に、気持ちをこめた口付けを届ける。
ふっくらとした彼女の唇を自分の唇で少しだけはさみ、音を響かせていく。顔をゆっくりと離せば、再びトロンとした表情を自分に見せてくれる。
「すまんな」
「…いえ」
七瀬の左頬をひと撫ですると、彼女が言葉を発した。
「あの…お願いがあります」
「どうした?」
俺の背中に腕を回したまま、顔だけを上に向けている。やや顔が赤い。さて、何を言って来るのか?
「……る…を」
「?…もう少しはっきりと言ってほしいのだが…」
彼女の両頬をそっと包み、焦茶の双眸をじいっと至近距離で見つめる。七瀬の瞳が揺れ、一度両目が閉じられた後、小さいが確かな言葉が発せられた。
「背中に……しるし…つけて…下さい…」
なるほど、これは確かに言い出しにくいな。
「……わかった」と顔を綻ばせながら了承の言葉を伝え、再度七瀬の甘い唇に口付けを落としていく。