第29章 褒められ日和に、橙が咲く ✳︎✳︎
✳︎328ページからの七瀬目線✳︎
「やっぱり杏寿郎さんはずるいです」
「そうだろうか?」
「ずるいですよ」
今度は私から彼の唇へと口付けを届けた。そこはふっくらとした肌触りで気持ちよくて心地よい。
左頬が大きな掌で包まれ、撫でられる。すると、口元に笑みが浮かぶ。
「でもそんな所も大好きです」
「そうか、嬉しいな」
彼の首に自分の両腕を回した。先へ進んでも大丈夫 —— これは自分から彼に送る合図だ。
口付けを互いに続けながら、下へ下へ杏寿郎さんの右手が移動する。頬、首、鎖骨を通り過ぎて向かう場所は。
「んっ……」
「どうした? 服の上から触れているだけだぞ」
グッグッと左乳房が揉み込まれた。彼の言う通り、衣服の上から触って貰っているだけなのに……自分の体はそれだけで自然と身震いしてしまう。
これは怖いからじゃない。気持ちいいからだ。
「あ、もう杏じゅ……」
「すまん、一度触れてしまうと…」
スルッと着物の合わせ目から掌が侵入して来る。もう私の胸の先端は質量を増し、きっと膨らんでいる。それは自分で見なくてもわかってしまう。
でもちょっと待って欲しい…!!
「汗、かいたから…湯浴みしないと」
「別に構わないぞ?」
杏寿郎さんが気にしなくても、私はやっぱり気になる。しばらく動きを止めていると「俺のにおいが気になるんじゃ無いか?」と問いかけて来る。
「……大丈夫、です」
「七瀬、無理はするな」
「無理は……」
違うんだけどな。どう伝えたら良いんだろう。言葉が上手く出ないや。でも言うの恥ずかしいなあ。
「あ、あの。杏寿郎さん……そうじゃなくて」
「俺のにおいが気になるのだろう?」
そっと自分の両頬が包まれた。
首を傾げながら私を見る恋人に、胸が甘く疼く。