第22章 風柱・不死川実弥
—— 五分後。
互いに息を整えた二人は、木刀を片付けながら話している。
「お前も沢渡も同じ呼吸の使用者だが、全然違うなァ。全くの別モンって感じだったぜ」
「そうだな! それは俺も普段から重々感じている。ただ…」
「どうしたァ」
槇寿郎と杏寿郎は太刀や所作がよく似ている。
七瀬が普段から自分にそう伝えるのだ。これを聞いた実弥は思い出したように、口を開いた。
「俺も聞いた事あるなァ。任務で一緒になった隊士や隠が口々に話してたぜ」
「そうか! 柱の不死川の耳にも入るぐらい、浸透しているのだな!」
杏寿郎はとても嬉しかった。
幼少時より憧れ、背中を追いかけていた父親と姿が重なる。
鬼殺隊内でも広まっていると言う事実に、一人胸を熱くしたのだ。
「すまねェ、とっくに二十分過ぎちまったな…」
「気にするな! 君と手合わせを一度してみたかったのだ。故に貴重な機会だったぞ」
「そうかい、そりゃ何よりだァ」
実弥も杏寿郎と手合わせする事を随分前から望んでいた。互いの顔に浮かぶのは充足感 —— ただ、それだけである。
「では俺はそろそろ失礼する! 不死川、すまんが引き続き継子がここに来た際はよろしく頼む!」
「おゥ、わかったぜ」
右手を高々と上げ、炎を模した羽織を颯爽と翻しながら門扉をくぐる杏寿郎。それを見ながら実弥はある人物の事を思い出していた。
『”また明日” そう気軽に言える日々にしたい、かァ』
七瀬の日輪刀に二度目の色変わりが起こる以前。
一人の一般隊士がいた。彼は数十年ぶりに鳴柱を就任するはずだった。
「風柱! また任務でご一緒した時はよろしくお願いします」
『俺も他の柱のヤツらも、いつから”またな” って言ってねェんだろうなあ』