第17章 蟲柱・胡蝶しのぶ
「窪田くん!」
「はい、どうしました?」
「あ、いや君ではなく…」
杏寿郎は男隊士を呼んだ —— つもりであった。だから女隊士が呼びかけに反応した事に少々戸惑う。
「炎柱様、俺の名前は広瀬です!! 合流した時にも伝えたのですが……」
「む、すまない!」
「いえ、他隊士から聞いてはいたので大丈夫です。話を遮って申し訳ありません。俺に何かを言おうとされていましたよね」
以上のやり取りは、一般隊士が炎柱との合同任務の際によく見られる風景である。
「では改めて広瀬くん。君は彼女に軟膏を塗れと言ったがなぜ俺にもそれを言ってくれないのだ??」
「えっ、いやそれは……」
広瀬は今し方自分が取った行動の理由を、杏寿郎にぽつりぽつりと話していく。一般隊士が使用している物を上官である柱に渡すわけにはいかない —— そんな内容だ。
「うーむ、君の言い分は理解出来るが、少し解せないな」
「申し訳ありません。でも俺達一般隊士にとって柱は特別。一定の距離を取る、ではないんですが。わきまえないといけないなと常に思っています。それに……」
あなたは体格も良いし、自然治癒力も窪田より高いだろう。以上の見立てからもきっと大丈夫だと判断した。広瀬は続けてそんな事を炎柱に伝えた。
「承知した! 色々と気を遣わせてしまい、申し訳ないな」
「炎柱様、お気を遣わせてしまったのは私です。どうか気になさらず。でも助けて頂いた事、とても感謝しています」
ありがとうございます、と深く頭を下げる窪田。その背中をポンと叩くのは広瀬だ。
「あ、隠が来ましたね。すみませーん!! こちらです〜」
右手を大きく振った広瀬の視線の先には、頭巾を被った隊服姿の人間が確認出来た。二人程自分達の元に向かって来ている。
「お待たせしました! 皆様お怪我は…」
「炎柱様を先に診て下さい。俺とこいつは軽傷です!」
促された隠は、手拭いを巻いている杏寿郎の応急処置を早速始めたのであった。