第17章 蟲柱・胡蝶しのぶ
杏寿郎が二日前に対峙したのは、土竜(もぐら)のような鬼だった。
縦に細長く、円筒形の生き物だ。数は三体。生き物の土竜と違う点は人並みに全長が長い、と言う部分。
彼と同行していた隊士は二人。
共に階級は戊(つちのえ)で男女一人ずつだ。女の隊士は水の呼吸、もう一人の男の隊士は風の呼吸の使用者だ。
『地中での敏捷性が高いな。しかしそれだけではこちらに攻撃が出来まい。恐らく機を見て姿を現すはず……地面から出た時が好機か』
敵とこちらの数は同じ。あちらが数的有利と言う事はない。
男隊士は風の呼吸を使用するので、恐らく実弥同様に反射神経は良く、体の使い方も上手いだろう。
頭の中で分析した杏寿郎は、男隊士に敵の動きをよく見て、地面が盛り上がって来た際に得意な型を打て。
だが、女隊士には極力攻撃する事を抑え、回避する事に徹底せよ。やむを得ずに攻撃をする際は、男隊士の動きをよく見ろ。
そんな指令を隊士の二人に素早く伝えた。
これで上手くいくはずだった。
しかし、土竜鬼の攻撃が地中を這い回るだけの単調な動きだった為、女隊士に少しばかり慢心が出来たのだろう。
彼女は呼吸が使える —— 自分は攻撃出来るのだ。そのように考えてしまった。
「水の呼吸・捌ノ型」
「待て! 型を打つのはやめろ!!」
「えっ……」
男隊士が叫んだが、彼女の後方から地鳴りのような響きが聞こえた直後。
「血鬼術・地盤の鉛(じばんのなまり)」
鬼が姿を現したのだ。
既に捌ノ型を放とうとしていた女隊士は前方に視線が向いている為、背後からの動きに反応が遅れてしまう。
地面が盛り上がり、舞い上がった複数の土の塊が彼女を襲った。
「参ノか……」
女隊士が回避技を出そうとした瞬間、側面から現れた横一閃の炎が二つ左右に薙いだ。