第12章 もう一つの選択肢
翌朝、目を覚ませばルー様が私を見ていた。何となく少し柔らかくなった表情で、私の額にキスをする。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「今日も愛らしいな、私の女神は。」
歯が浮く台詞も、見た目も事実的にも王子様のルー様には違和感がない。
「ルー様くらいです、そんな事言ってくれるのは。」
「私だけでないと困るのだが?」
朝から空気が甘い。
「今日は、見せたいものがある。朝食の後、付き合ってくれ。」
「分かりました。」
今日の朝食には、茶碗蒸しが付いていた。久しぶりでテンションが上がる。ルー様も気に入ってくれた様で嬉しい。
そして、朝食後に向かった先はあの書庫だった。私に差し出したのはあの書物。
「読みたいだろうと思ってな?」
「ありがとうございます。」
ページを開けば、確かに文字が増えていた。内容はルー様が話してくれたままだった。
「不思議ですね。勝手に文字が増えてるなんて。」
「そう・・・っ!?文字が・・・。」
丁度、目の前で文字が増えていく。その瞬間に立ち会えて驚きを隠せなかった私たち。そして、その内容はもう一つの選択肢だった。
あのタイミングで私と出会って無ければ、もう一人の女性と出会っていたと。そして、その女性も黒い髪色。
「もう一つの選択肢・・・。」
ひょっとしたら、今こうしてルー様の傍にはいなかったかもしれない。悪い人に捕まって、酷いことになっていたかもしれない。
「もう一つの選択肢か。私にその選択は必要なかったな。」
「えっ?」
「今、こうして幸福を感じている私だ。他に必要ない。」
「もっと幸福なことが訪れていたかもしれないのに?」
ルー様は目を細め、私の頬にキスした。
「私はカオリがいい。出来るなら、今すぐにでも妻にしたいと願う程に。」
「ルー様・・・。」
「ん?まだ、続きが・・・。」
書物に目を戻せば、文字が更に増えていく。
「もう一人の女性は、先の女性と同じ場所で直ぐ後に命を落とした女性?そう言えば・・・。」
車と接触した時、誰かの声が・・・確か、あの声は男性の・・・そうだ、元カレの赤女の名を呼ぶ声だった!!
「ルー様、あの赤女がこの世界に・・・。」
「そうか。だが、私には魅了の魔法は効かない。これでも、王族の端くれだからな。私の愛情は、カオリだけのものだから安心しろ。」