第9章 友好国の皇子
「わ、私は美しくないと仰るのですか?」
「綺麗だとは思いますけど、それだけです。」
リンツ皇子からすれば、全否定された様なもの。
「ルーチェス王子の方が良いと?」
「人の好みはそれぞれです。」
ニッコリ笑って、そう言い切った私の女神。まさか、こうも存在を否定されるとはリンツ皇子は思ってもみなかったのだろう。
「わ、私のどこがルーチェス王子に劣ると?」
「さぁ?」
「えっ?」
カオリは興味を失くしたらしく、クッキーを摘み口に入れては顔を綻ばせていた。
「そろそろお時間でございます。」
オリバーの一声で、茶会が終わった。カオリはクッキーが気に入った様だったので、後で執務室に運ばせる様に指示した。
リンツ皇子がカオリに近付いて来ようとしたが、それより先にカオリが私の手を握り締めて来た。その小さな手をしっかりと握り締め返す。
機嫌よく私に笑顔を向け、可愛い声で・・・何故か、国の自給率の話題を振って来た。そんな会話に入れなかったのか、リンツ皇子は大人しく引き下がった。
そう言えば、あの容姿を見ても何ら変わりはしなかった。そうか・・・カオリの好みでは無かったのか。
「ルー様、私頑張りました?」
「あぁ、勿論。」
「あの装飾を買わなければ、少しは国の為にも自身の首を絞める事にもならなかったかもしれないのに・・・残念な人ですね。」
残念な人か・・・これを、あの皇子が聞いたら何を思うだろうか?必要経費とでも言うだろうか?
だが、まさかカオリの口からこの国の事を考える言葉を聞けるとは思ってもみなかった。
リンツ皇子の心は折れただろうか?カオリに興味は失くしただろうか?そのことが気がかりで、私の気持ちは晴れない。
そして、その憂いは翌朝に確かなものとなった。
リンツ皇子よ・・・そんなに鼻をへし折られたのが気に入らなかったのか?綺麗だとは言われただろう?それに、人の好みはそれぞれだと言うことも。
何故、翌朝の食事を誘って来る?もう一度だけ、会って話しをしたいなど聞き入れるハズなどないだろう?
そう思っていたのだが、カオリの返答は私とは違っていたんだ・・・。