第9章 友好国の皇子
カオリを部屋で休ませてから執務室で仕事をしていると、私を呼びに来たメイド。どうやら、友好国の皇子がこの国に到着したらしい。妙に色っぽいが男である。
今回の訪問は、ただの立ち寄り。我が国を通って、隣国の王女と顔合わせの為の一時的滞在。色っぽい見た目に反して、中身は正反対だと言うことを私は知っている。
ずっと婚姻から逃げていたが、どうやら政治的判断で逃げられなくなったらしい。相手の隣国の王女を思い出し、これまた見た目に反してキツイ性格をしていたなと遠い目をする。
良くも悪くも、自身に正直な人だったはず。私にこの縁談が政治的判断で来なくて良かった。
「元気そうだね、ルーチェス王子。」
「リンツ皇子もお変わりなく。」
「・・・ねぇ、逃げられると思う?」
この縁談?何故、私に聞く?そう仲は悪くはないが、だからと言って仲が良かった訳ではない。何せ、リンツ皇子は私より五歳年上だ。
「どうしてこの私が、あんな我儘王女と結婚しないといけないんだ。確かに、見た目は王女らしくて私よりは劣るが悪くはない。でも、あんな中身の・・・。」
さりげなく、自分の方が美しいと言っているリンツ皇子。全くもって面倒くさい。この縁談は、政治的判断のものだ。リンツ皇子の国、マーリア国の小麦が数年不作で援助して貰っているから断れない。
「それより、女神の代理人がこの国にいるのだろう?私に合わせてくれないか。」
やはり、それが本題か。だが、カオリは私たちの部屋で休息中だ。
「何故?」
「会うくらい構わないだろう?」
「少々、私が無理をさせて今は私たちの部屋で休ませている。」
皇子なのに、分かりやすいヤツだ。どうせ、あわよくば自分に惚れさせて連れ帰ろうとでもしていたのだろう。
「堅物のルーチェス王子が、そうまでして囲い込む女とは余計に興味をそそられるな。やはり、一度は会ってみたい。」
「時間があれば。」
「問題ない、時間なら合わせる。それに、まだただの婚約者同士だろう?」
やはり、話しを進めておいて良かった。この時、そう思った。そして、リンツ皇子も私の様子を見て悟ったらしい。
「準備は順調と言うことか。・・・増々、興味出てきたよ。あぁ、仮にだけど、私に心変わりすれば退いてくれるよね?何せ、女神の代理人の意思なんだから。」
その言葉に、私は無言で返した。