第7章 ルーチェスの日記②
あぁ、この綺麗な瞳が私に向けられているなら。私は大丈夫だ。ただの獣に成り下がらない様に、私から視線を反らされない様に真綿で包むかの様に愛していこう。
その後、カオリから思った以上に簡単に、私への気持ちを言葉にしてくれた。たった二言だったにも関わらず、私は薄暗い気持ちが払しょくされたのだ。
「好き」
カオリから紡がれた言葉は、嘘偽りない心からの言葉だ。
「アレ・・・?何だ、これは・・・」
無意識に零れていた一筋の涙。私以上に、カオリの方が驚いていた。こんな格好悪いところを見せてしまうだなんて・・・。
どんな時でも、泣くことはなかったのに。忘れていた感情を、こうも思い出させてくれるだなんて。
カオリは私を優し気に見詰め、ただ抱き締めてくれた。本当にカオリ自身が女神だと思えた。
一頻り、カオリからの温もりを感じていると、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。私ではなく、カオリの方がだが。
あぁ、本当に愛おしい。
そうだ、今から婚儀の準備をしよう。両人が同じ気持ちだと分かっているし、一般的に考えても王族の婚儀の準備は一年掛けて行われる。
私は他の者を妻にしたいと思わないし、思えない。それに、カオリも私が王太子だと幸いにも認識している。だったら、このまま外堀を埋めてしまおう。
反対する者は容赦なく断罪するし、邪魔する者は・・・と、少々物騒な思考をしてしまっているな。
でも、それも私の一部か。
明日もカオリに愛を囁き、浮足立つ甘い口付けをして私という檻に・・・と、また物騒な思考が。
「本当に、何処まで私を翻弄させるのやら。でも、愛することは止められないのだろうな。」
腕の中で眠る未来の妻を抱き締め、今日の夢にカオリが出て来る様にと祈りながら目を閉じた。