第7章 ルーチェスの日記②
私は笑ったらしい。あのオリバーでさえ、ポカンとした表情だった。
カオリの作ったお菓子は、本当に素晴らしく美味だった。だから、自然に笑っていたのだと思う。
特に、母上には泣かれて喜ばれた、父上でさえも。
こんな出来事があり、余計にカオリの影響力は大きくなった。貴族の中では、カオリの存在を疎む者がいるがこれで大きく反論する者は減るだろう。
そして、私自身もカオリがより一層愛おしい。一刻も早く、彼女を私だけのものにしたい。
そう言えば、カオリからは好きだと言われた事が無い。正式な付き合いをと所望されたのみ。
「だが・・・口付けした時のカオリの表情は、とても・・・。」
口元がニヤついてしまい、手で覆い隠す。
「一度、聞いてみてもいいだろうか?一度くらいなら・・・。」
強硬手段で私の部屋で共に生活をする様に決めてから、カオリは素直に従ってくれている。私と共に寝ることすら、躊躇なくなったのは嬉しい。
そう言えば、カオリには恋人がいた。それが苦い思い出でしかない様だが、口付けくらいは・・・想像しただけではらわたが煮えくり返る。
私の望み通りにさせて貰えるのも、この呪いが故。そして、女神の代理人を仇成す者には等しく苦悩が訪れる。
あの後のあの令嬢は、直ぐに輿入れが為され国を出て行った。通常の貴族間の婚礼なら、少なくとも半年は日数を掛けるのが通例なのだが。
そう、この事はあの書物に書かれていた。あれから、追加された文章がそれだ。カオリには話していないが、私はあの書物を毎日目を通している。
いつ、どんな内容が増えているのか、直ぐに確認する為に。
そして、今のところとして・・・女神の代理人が幸福を感じているのなら、国は栄えるともあった。盗賊団は、城下町の外で殲滅は出来たし首尾は上場だ。
でも、この事が他国に広がれば、私のカオリを欲しがる者が出て来るだろう。あの王子の様に・・・。
私はカオリに恋心を募らせる度に、自身の視野が狭くなりそうで怖い。私以外の誰かに心を奪われる様な事になれば・・・。
そんな事を思っていると、私の頬に触れる優しく柔らかい感触。どうやら、思考に集中していた様でカオリの心配そうな眼差しに気付けていなかった。
私を気遣う優しい声と、私を包み込む甘い腕の感触。