第6章 暫しの微笑み
今、目の前に立ち塞がっているのはルー様ではなくオリバー様。いつになくピリピリした様子に、たじろぐ私。あんなに頑張った執務だったけれど、お出掛けは延期になった。
と言うのも、隣国から流れてきた盗賊団がこの国に来ていると報告があったからだ。私としては残念だけど、聞き分けない我儘な性格はしていない。
ただ、すっかり焦燥感を醸し出しているのはルー様の方。余程、楽しみにしていたらしい。そんなルー様の為に、何か元気付けることは出来ないかと敏腕小姑ことオリバー様に詰め寄られているのだ。
でも、ただの小娘の私には何の力もない。そう何度も言っているのだけど、オリバー様は納得してくれない。さっきから、何かあるだろうとそればかり言う。
一体何?私に何をさせたいと言うのだ。そう考えて、フト昨日の会話を思い出す。
「・・・私に、お菓子を作らせたいのですか。」
「ご名答です、カオリ様。では、参りましょうか。場所は確保しておりますので。」
この用意周到さ。まさに敏腕小姑。本当に部下の鑑だな。良かったね、ルー様。貴方の部下は優秀です。
向かった先は、だだっ広い厨房の一角。これまた優秀らしく、それらしい食材の数々が揃えられていた。つい、浮かれてしまう私。
この世界に、私が想像するケーキってハッキリ言って無い。簡単なプリンとかカップケーキとか手ごろサイズなものばかりだ。
オリバー様は私の傍から離れず、監督という見張り要員なのだろうか?だったなら、使ってもいいよね。敏腕小姑だもの。主の為に働けるなら本望でしょう?
慣れない厨房で最新の注意を払いながら、私のケーキ作りが始まった。美味しいしっかりしたメレンゲを作る為に、オリバー様に一肌脱いで貰いました。
こっちの世界に来て初のケーキ作り。ついでに、力要員も確保とくれば、更にもう一頑張りしちゃうよね。
スポンジケーキを焼いている間、シュークリーム作り。焼き釜は何台かあるから、問題なしである。上手く膨らむといいなぁ。
シューを焼き出した頃、スポンジケーキが焼き上がった。釜から取り出せば、いい匂いが立ち上がって来る。焼き具合も申し分なしだ。良かった~、焦がさずに済んで。
さて、これを冷ましている間、カスタードクリーム作りだ。助手ことオリバー様にも貢献して貰って、美味しいバニラビーンズもゲット出来て美味しくクリームが出来上がった。