第5章 プライド
「ル、ルーチェス様、この私を無視するなんて酷いではないですか。留学から戻った私を労わっては頂けないのですか?以前の様に。」
猫を被った物言いだったが、相変わらずルー様は無表情且つ優しさを微塵も見せない返答をした。
「私に気安く声を掛けて来るな。」
令嬢は期待していたのだろう。ルー様の容赦ない言葉を想像もしていなかったらしく、大きな瞳には涙・・・ではなく、怒りが籠っていた。
「その女を隣国の王子が探していらっしゃいましたよ?ご自身の妻にするとか仰っておられましたけれど。」
ん?えっと、ルー様は無視ですか?いいのですか?
歩みを止めないルー様に付き従い、食堂に入るとこの後はさっきのことは無かったかのように通常運転です。だから、そんなに見詰められると恥ずかしいのですが?
「ルー様、ちゃんと食べていらっしゃいますか?」
「あぁ、勿論だ。カオリと食事を共にすると、余計に美味しく感じる。」
良かったですね、料理人さんたち。ルー様は余計に美味しいそうです。つまり、いつも美味しいと思っているってことですよね。
「そう言えば、元はお菓子作りとか好きだったんですよね・・・。」
つい、ポロッと零れてしまった前世での習慣。あれ?ルー様が、私を見たまま驚いている。
「女神のお菓子か・・・それは、大いに興味あるな。」
「そ、そんな大層なものではありま・・・。」
期待に満ちた目をされても困るのですが?と言っても、私もクッキーだけじゃなく、ケーキとかケーキとかケーキとか・・・ケーキしか言っていないけど、ケーキが食べたい。
食事の後、私は一人で入浴。ルー様はオリバー様と密談と言う名の打ち合わせ?
湯船に浸かりつつ、さっきの女の子のことを思い出していた。ファンというより、もっと身近な感じに見受けられた存在。
そして、あのルー様があんなにも拒絶する存在。表情は兎も角、態度も言葉でさえも。
「やっぱり、あの女の子ってことなんだろうなぁ。自分から酷いことを言っておいて・・・。」
私の存在が、あの女の子のプライドを刺激したのだろう。女性を突き放していたルー様が、こんなにも愛しんでくれる存在。
好きだっただけに、余計に苛立たせたのやもしれないなぁ。でも、そんな人にルー様はあげられないけど。魅惑のボディ相手にも、断固戦うよ私は。