第12章 問題10 攘夷浪士
「クク……大分懐いてるみてェだな」
自分が掴んでいる間はバタバタと暴れていたのだが、優姫が現れた途端ぴたりとおとなしくなったシンを見て高杉は笑いながら言った。
「お友達なの――」
へにゃっと笑って言う優姫を見ると晋助は満足したのかを背にして煙管の煙を噴かせて言う。
「来島に言われて見に来たが特に問題もねェみてェだな」
歩こうとした瞬間、袖の裾をに捕まれ小さく振り向いて言った。
「どーした?」
「……………」
無言で何も言わない優姫の事を晋助は黙って見下ろすのだった。
誰かが去って行くのを見るのは好きじゃない。もしかしたらもう帰ってこないかもしれないから。
『また』と言う言葉が『最後』と言っている様な気がするから。
ぎゅっと裾を掴む力を強くした優姫に対し、晋助は煙を思いっきり吹き出してから一言言った。
「なんか甘ェモンでも食いてェ気分だな。ついて来るか?」
その一言に優姫はパァッと顔を輝かせて言う。
「行く !! 」
本当に嬉しそうな表情をした優姫に一瞬ドキンとしたのだが、何事も無かった様に晋助は歩き出す。
するとすぐ後をが追ってきてちらちらと自分の手を見ているのに気が付き、さっとその手を握りしめて言うのだった。
「うろちょろしてると置いてくからな」
「置いてっちゃやだ !! 」
泣き出しそうな優姫の表情を見て、晋助は大きく肩で溜息をつきながら言った。
「仕方ねェ姫さんだな」
「置いてかない?」
心配そうに見上げて言う優姫に晋助はクク、と笑ってから言う。
「置いていかねェよ。何処にも、な」
その返事を聞き、優姫は嬉しそうに微笑んだ。
◆
「優姫ちゃーん?」
先程まで庭先でシンと遊んでいた筈の優姫の姿が何処にも無く、菊は探しているのだった。
「今から買い物にでも行こうかと思ったのに何処に行っちゃったのかしら……?」
ふと裏門が小さく開いているのを見て菊はパタパタと裏門へ行った。
「また裏門から外に出ちゃったのかしら?」
ひょこっと顔を出して裏道を見ると菊は自分の目を疑った。
優姫が高杉晋助と共に歩いている。物凄く嬉しそうな表情をして手を繋ぎ合って。
その頭の上に乗っているシンもおとなしくしているのだった。
「…………優姫ちゃん……?」
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