第12章 問題10 攘夷浪士
仕事へ出かける準備が整った近藤は優姫の頭を撫でながらそう言ってきた。
「暇になったらお菊さん達と一緒に買い物行ったりしても良いからおとなしく待っててなァ」
「うん」
大きく頷いた優姫に安心をし近藤達は屯所を後にした。皆が出かけていく後ろ姿を見ながら、優姫は寂しそうな表情で昔の事を思い出すのだった。
『ねえ、次は何時来てくれるの?』
本当に寂しそうな表情で見上げてくる優姫を見て母親は無理矢理笑顔を作って言った。
『優姫が良い子にしていたらすぐに会いに来てあげるわ』
『本当に?絶対に?』
何度も尋ねてくる優姫の目線に合わせて母親はしゃがみ込むとにこっと微笑んで頷く。
『約束ね』
そう言うと母親は優姫の祖父母といろいろと話をして去って行った。
その後ろ姿がどんどん小さくなって行くのを、七歳の優姫は見えなくなるまでずっとずっと見ているのだった……。
「…………」
寂しそうな表情でいる優姫の事が心配になったのかシンが着物の裾を噛んで引っ張るのだった。
シンに裾を引っ張られるといつもの表情に戻った優姫がにぱっと微笑んで言うのだった。
「何して遊ぼうか?」
◆
「シン――、何してるの――――?」
急にかしゃかしゃと塀を登りだしたシンの事を優姫は呼ぶ。
「危ないから降りてきて――」
そう言っても全く戻ってくる様子の無いシンに、優姫は一生懸命塀を登って後を追おうとした。
しかし身長の低い優姫が登れる筈もなく、困り果てていると塀の向こう側へ降りたシンにあ、と声を出すのと同時に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……なんだテメェ」
シンが丁度降りた所に居たのだろう、シンの首元を掴んでいる姿が容易に想像出来、優姫は急いで裏門から出ると叫んだ。
「晋助!」
出てみると案の定其処には晋助の姿があり、いつもの様に目立つ着物に煙管に笠を被っているのだった。
ぽすっとそんな晋助の腰に優姫はしがみついた。
「よォ。元気そうじゃねーか」
わしゃわしゃと優姫の頭を撫でながら晋助は掴んでいたシンをの頭の上に落とす。
「コイツはァお前のペットかなんかか」
キューと鳴いたシンを見ては言った。
「こらシン駄目でしょ――勝手に外出ちゃ」
そう怒るとシンは反省したのか小さく鳴くとおとなしくなった。