第11章 問題9 もふもふもふもふ
三人とも殺る気満々で食堂を出て行き、一人取り残された山崎は大きな溜息をついて言うのだった。
「誰かが殺されちゃう前に調べた方がよさそうだな……」
自分が監察官である事を始めて良かったと山崎は本気で思った。
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「最近の優姫ちゃんの様子?」
まず尋ねるなら女中が一番だと思い、台所で洗い物をしている女中達に話を聞き出す。捜査の基本だ。
「特に変わった所は無いと思うけどね」
「うんうん、ご飯も毎日完食してるし」
「え?完食?」
山崎はその一言に大きく反応するのだった。
今朝の優姫は食事をたくさん残していた。すたすたと足早に去って行ったのだが、確かに食事は残っていた筈だ。
「好き嫌いの無い子でいつも美味しい、って言ってくれるから作り甲斐があるわ」
ニッコリと答えた女中と別れ、山崎はむぅ、と唸った。
食堂を出て行った時には残っていた優姫の食事が、流しに辿り着くまでの間に綺麗になくなっている。
「不思議だなァ……」
誰かにご飯を恵んでいるのかと思いながら菊の元へ向かっていく。
「優姫ちゃん?」
パンパンとシーツを干しながら菊に尋ねた。大量の洗濯物を干していたので、何もしないで話だけするのは気が引けたからだ。
一番優姫と仲が良い女中は菊だ。菊なら何か知っているかもしれない、と山崎は期待しながら話をした。
「最近何か様子がおかしいとか何か見ていません?」
「そうねェ……」
新しいシーツに手を出しながら菊はあっ、と何かを思い出したらしく言った。
「そう言えば最近着物の裾に泥が付いてる事が多いね。何処か山の中にでも行ってるのかと思ってるんだよねぇ」
「泥が?」
山崎が首を傾げるとパンパンといい音を出しながら菊は頷く。
「洗い甲斐があるって言っちゃえばあるんだけどねェ……。毎日汚れているの見ると心配になっちゃうねェ。子供は元気に泥だらけになるのが一番だけど」
「あ、そう言えば優姫ちゃんですけど」
菊と一緒に洗濯物を干していた一人の女中がこう言ったのだった。
「優姫ちゃん最近食事の残り物を大切に持って出かけて行ってるみたいですけれど、何か犬とかでも隠れて飼ってたりするんじゃないんですか?」
「動物?」
優姫の性格からして、もし隠れて動物を飼おうとしているのかが分からず、どうしてなんだろう、と山崎は腕を組んだ。
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