第24章 問題22 選択の天秤は何時でも酷である
了承の返事が来ればそれで勝ちとなる。優姫の心は今晋助に落ちかけている。チャンスは逃せない。
「…………かえ、る。晋助のところ?」
尋ねてくるのだから、優姫の頬に口付けながら、晋助はハッキリと告げる。
「テメェの事を愛でるのも愛するのも、俺一人だけで十分だろ?」
晋助の言葉を理解しているのか、優姫はじっと晋助の事を見つめていた。幼い少女の瞳の中に確かに年相応の少女の姿が垣間見えた。
今まで姿を隠していた本来の十三歳の優姫が姿を見せた。晋助はそう確信をして愛でる様に再び口付けを交わす。
優姫は二人居る。幼い幼児の様な純新無垢な優姫と、自分を愛してくれる存在を求める飢えた優姫。
キスがきっかけでもう一人の優姫が姿を現した。この優姫は自分を愛するべき存在を間違いなく選ぶ。
それに有利な状況になったのは、先に手を出した晋助だ。
同時に十四郎も優姫の異変にすぐに気が付く事が出来た。常に一緒に生活をしていたから気付けた、優姫の異変。
幼い少女の雰囲気をなくしかけているその姿はまるで、認めたくないのだが……。
雄を惑わす空気を纏っている雌だ。
「京は江戸と違って静かな所だから、お前もきっと気に入るだろう」
口付けから解放した晋助に言われて、優姫はカバンのショルダーベルトを握り締めながらに尋ねてくる。
「……京に行ったら晋助とずっと一緒?」
「お前が望むならば何でも叶えてやるさ」
そう言って晋助が手を差し出すので優姫はその手をじっと見た。優姫には大きい、大人の男の手が自分を待っている。
父親の手もこんな感じだったのだろうか、と記憶を遡るが思い出せなかった。
でもこの手を取れば孤独(ひとり)ではない。
そおっと手を差し伸べようとした瞬間。
「優姫 !! 」
後ろから名前を呼ばれて振り返る。そこには優姫に向かって手を差し伸べる十四郎の姿があった。
「心配して迎えにきた!近藤さんも総悟も、万事屋の野郎もみんな迎えにきた!まだ間に合う!戻ってこい!」
遠くからでも分かる十四郎の手の大きさ。生活を共にし、寝食を共にしている十四郎の優しさを知らない訳が無い。
煙管の匂いと紙タバコの匂い。どちらも煙草を好まない優姫には少し噎せ返る苦い匂い。
選べるのは一人だけ。握れるのは一つだけ。