第24章 問題22 選択の天秤は何時でも酷である
『お母さんがお父さんの何処を好きになったかって?んーそうだねぇ……』
優姫の脳裏に母親の言葉が過ぎった。子供ながらの純粋な疑問を投げかけた時の母親の返事を。
『優しくて、手がとても暖かったから、かなぁ?ほら、お父さんの手って大きいでしょう?』
(暖かい……大きい手)
優姫はそっと伸ばされている手を握りしめた。自分が選んだ手の主は……。
「京へ帰るとするか、優姫」
十四郎に不満は無かった。けれど、優姫が選んだのは晋助だった。自分が選んだ暖かい手の主は晋助だ。
「……うん、帰る」
小さく答えた優姫の事を抱きしめる晋助を見て、十四郎は慌てて足を踏み出した。
連れて行かれてしまう前に取り戻さないと、優姫と二度と元の関係に戻れなくなってしまう。
晋助が優姫を抱きしめたまま窓際へ飛び下がるので耳を澄ませると、ババババ、とプロペラの音が聞こえている事に気が付いた。
(時間稼ぎされていたっ !? )
そう十四郎が気が付いた時には手遅れだった。
晋助と優姫がいる窓際の後ろにヘリコプターが現れ、扉が開いていた。
晋助が無意味なまでに優姫との口付けを見せ付けていたのは、牽制と共に迎えが来るまでの時間稼ぎだったのだ。
「シン、行くぞ」
トン、っと優姫を連れてヘリコプターに飛び乗りシンを呼ぶと、晋助と十四郎の事を交互に見て困った様子をしていた。
シンは頭の良い動物だから、今の状況に戸惑いが隠せないのだろう。
優姫が選んだ晋助と共にいるのか、皆で守ってくれている十四郎と共にいるべきなのか。
シンが戸惑っているならば、まだ優姫に言葉が届くかもしれない。シンがヘリコプターに飛び乗る前に連れ戻さねばと、十四郎は叫んだ。
「頼む優姫!行かないでくれっ!戻ってきてくれっ!」
切実そうな十四郎の声に優姫は晋助にしがみついたまま、顔を動かして十四郎の事を見た。
駆け寄りながら十四郎が手を差し伸べてきている。良く知る大きな手に、無意識に手を伸ばしていた。
けれどその手は晋助に掴まれ、戻されてしまった。
それを見たシンも十四郎に背を向けて、ヘリコプターへと飛び乗ってしまった。
選択は完全に決まった。