第24章 問題22 選択の天秤は何時でも酷である
考えれば考える程腸が煮えくり返る。
「……優姫の事を騙していて、楽しかったかクソ野郎ォ」
柄を掴む力がギリギリとのしかかり、怒りで噛み締め過ぎていたのか、いつの間にか十四郎の口の中は鉄の味がしていた。
晋助は確かめるかの様に優姫の肩を抱き寄せ、髪の毛に口付けながら答えた。
「楽しくねェから迎えに来た。それだけの話だ」
晋助の返答に十四郎は息を飲んだ。
『あの』高杉晋助が他人を想いやり、自ら迎えに来たと言うのだ。有り得ない。
仲間でも平気で見捨てる事のある人間が、だ。
目の前で今見せられた口付けは、優姫の気を引く為にしたのではない。
晋助個人が優姫の事を特別視して、好意を抱いているからしたと言うのだ。
目の前の男は言うならば、恋敵、である。
「俺の女をどう触れようが、何をしようが俺の自由だ。口出しされる理由がねェなァ」
髪の毛から瞼、頬、とわざと見せ付ける様に晋助は口付けを続ける。
目の前で見せ付けられる行為に、十四郎は目眩すら感じて動けない位に、思考が狂っていた。
「……晋助」
晋助の愛撫を黙って受け入れていた優姫が名前を呼ぶので、顎を掴むと上を向かせた。
小さな少女の頬が紅色に染まっていて、十三歳とは言え年相応の表情がちゃんと出来るのではないかと晋助は考えていた。
精神年齢が優姫は兎に角低いので、キスに関しても余り反応しないかと思っていたが、そうではなかった。
目前の少女はしっかりと少女の顔をしている。
再び唇を重ねようとすると、ぴくっと小さく反応が来たので頬を撫でて告げる。
「する事ァ全部俺に任せてれば良いからな」
「……でも、晋助……土方にーちゃん……」
十四郎がいる。迎えに来てくれている。と目で訴えてくる優姫に、自分だけを見る様にと両頬を固定して晋助は告げた。
「俺だけを見ていろ。他人(ほか)を見るな」
告げると返事も聞かずに唇を重ねてしまう。先程までとは違う長い口付け。行き場のない優姫の手に指を絡ませ合い、まるで恋人同士の様な行動を続ける。
二度目は優姫も分かってくれているのか、赤い顔のまま目を閉じている。自分を受け入れて、言葉のままに己以外を見ようとしない優姫に優越感に浸る。
長過ぎる口付けを終わらせ、耳元にそっと告げる。
「帰るぞ」