第24章 問題22 選択の天秤は何時でも酷である
柔らかい何かが唇に触れている。暖かくて、苦い味がする。
それが晋助の唇である事にすぐ理解出来た。
江戸のトラブル娘
第22話 選択の天秤は何時でも酷である
「……ゆうっ !? 」
部屋に飛び込んできた十四郎は目の前の光景に身体が動かなくなった。声も出ない。
優姫と高杉晋助の唇が重なっている。何が遭ったのか分からないが、優姫が自分ではない誰かと口付けしている。
優姫の表情が驚いている所を見たら、同意の上でない事だけは理解出来た。
ゆっくり唇が離れていき、優姫は小さく声を漏らして言う。
「しん……すけ……」
困惑する頬を優しく触れるとピクっと驚いて目を閉じるので、そのまま後頭部に手を回して胸の中へ抱き締める。
キスからの抱擁に優姫は反応していないが、逃げる様子はない。
ゆっくりと晋助の首が動き、十四郎と目が合う。
「見世物じゃねェんだがな」
「 !! 」
勝ち誇った顔で言う晋助に、殺意に近い怒りが腹の底から溢れ出てくる。
「高杉てめェェェ……!」
ギリリ、と血が出る位に強く持っている鞘に力が籠る。今までにこれ程の殺意が出て来た事があっただろうか。
たった一人の少女を目の前で穢された事実に。
いや、違う。一人の少女ではない。
己が大切だと想い始めていた、ただ一人の優姫、だ。
「俺の女をどうしようが勝手だろう?テメェが入る隙なんざ最初からねェんだよ」
晋助の肩を抱き寄せている手に力がこもる。話さんとばかり抱き寄せる手の力は強いが、優しい。優姫を傷付ける事はしないと言う意思表示の様だった。
「純真なのを良い事に、騙して手に入れた気になってるだけだろうがァ!」
十四郎の言い分は正しい。何も知らない優姫に、今の国の在り方を伝えず、一方の思想だけを伝えたのだから。
「優姫は最初から俺のモノさァ。俺の為に新選組に潜入をして、俺の為に動いていただけだ」
高杉の言い分に十四郎は怒りが込み上げずにはいられなかった。
優姫が新選組屯所に来ていた理由は確かに高杉の言う通りで間違いない。けれど、優姫はその理由を理解していなく、何も知らない事を良い事に高杉に騙されただけだ。
優姫は犯罪者でなければ、被害者でしかない。
純粋に高杉の言葉を信じて動いただけだ。その結果、今優姫はどれ程傷付いてしまっているのか。
