第23章 問題21 独占欲
そう思った瞬間、途端に涙が溢れ出てきたのだ。
「ひじっ…………土方にぃちゃん」
ボロボロと泣き出す優姫に十四郎は攘夷浪士を切り飛ばしながら叫び言う。
「優姫 !! 今其処に行くから動くんじゃねーぞ !! 」
がむしゃらになって進んで行き、十四郎の姿が見えなくなったから身を乗り出すのを止めて、優姫は自分が来た階段の方に身体を向けるのだった。
その瞳は十四郎が絶対に此処まで迎えに来てくれると言う確信がある瞳。
優姫が屯所へ帰りたいと言う意思表示だった。
十四郎にだけは優姫を渡したくない。本気で晋助はそう思った。常に優姫の傍にいる十四郎に対し、殺意を抱くほどの嫉妬心を何時の間にか持っていたのだ。
優姫の話を聞き、同じ部屋で起きて、寝て、話をしている事を知った。
十四郎自身が優姫にどんな想いを抱いているかは知らない。
優姫が十四郎の事を家族として好いている事を知っていても、それが何時か恋心に変わる可能性が無い訳でもないのだから。
憎くてたまらない。
不安で仕方なかった。
十四郎を殺して優姫の視界から、記憶から消してしまいたかった。
今、目の前にいる優姫は十四郎が来る事を待ち望んでいた。
今同じ空間にいるのは晋助だと言うのに、まるで一人でいるかの様に優姫は黙って階段の方を見ていた。
優姫の中に居座っているのは十四郎。
自分ではなく…………彼。
憎い、悔しい、許せない。
最初に優姫に出会ったのは自分だ。
最初に屈託無い笑顔を送ったのは自分だ。
後から来た十四郎なんかにあの笑顔も………優姫自身も渡したくない。
笑顔で晋助と呼び、自分にだけ笑顔を向けてくればいい。
例え……優姫がそれを望まなくても。
「…………っ優姫っ !! 」
最上階のこの部屋にまで十四郎が登って来たらしい。
十四郎の声を聞き、確かに優姫の表情が明るくなったのを晋助は見逃さなかった。
嗚呼……渡したくない。
そう思った刹那だった。身体が勝手に動いていたのは。小さな優姫の肩を掴み、無理矢理こちらを向かせたのは。
驚いているその表情にすら心が跳ね上がってしまって。
気持ちだけで行動してしまった。
十四郎が部屋へ飛び込んだのと、優姫の目前に晋助の顔が合ったのはほぼ同時だった……。
(2008,8,1 飛原櫻)