第23章 問題21 独占欲
このまま優姫を手放せば完全に会う事が出来なくなる。
あの小さな手を離したくなかった。
拒絶をしている優姫の元にスッと歩み寄ると、驚いた表情で見上げてきた。大きな瞳にはうっすらと涙が浮かび出ていて。
自分の犯した罪の現れに晋助の胸は痛んだ。
こんな事になるなんて思わなかった。捨てる筈のモノを捨てられなくなるだなんて夢にも思わなくて。
誰にでも送るあの笑顔を自分にだけ向けて欲しいだなんて思うとは思わなくて。
こんなにも…………これほどにも愛しく想うだなんて……。
小さな頬に触れると温かくて、まだ子供独特の柔らかさを持っていた。
白くてきめ細かい肌は美しく、どれだけ頑張っても直せない寝癖は可愛らしかった。
初めて会った時のウザさは微塵も無く、声を掛けられる度に心臓が飛び上がる位に幸福になっていた。
優姫がいれば、それだけで良かった。
「優姫、帰るぞ」
「しん、すけ…………」
優姫の気持ちを最優先にするべきだと分かっていても……、分かっていても止められない想いは止めどなく溢れ出ていて。
小さな身体をぎゅっと抱きしめてやると困った様に手をばたつかせていた優姫だったのだが、暫くすると遠慮がちにだが静かに晋助の着物を掴んできた。
小さな手は必死になって着物を握りしめていて、拒絶をしていない、受け入れている現れだった。
「…………優姫」
晋助が少し腕に力を込めた時だった。
再び優姫の心を揺らがせる声が聞こえたのだ。
「優姫―――― !! いるなら返事をしろ―――――― !!!! 」
「土方にーちゃ……」
確かに聞こえてきたのは十四郎の声で。声のする方に素早く走って行ったシンは窓枠に飛び乗ると、下を見てしっかりと鳴いたのだ。
まるで助けを求めているかの様に。
「キュー」
十四郎の耳にその声はしっかりと届いていたらしく、バッと顔を上げて叫ぶ。
「シン !! ……と言う事は…………優姫!其処にいるのか !? 」
十四郎の叫ぶ声に晋助から離れ、優姫は窓枠へ駆け寄って身を乗り出して下を見た。
其処では真選組と攘夷浪士がぶつかり合っていて。その中には銀時達の姿も勿論合った。
十四郎にあんな自分勝手な事を言ったのに迎えに来てくれた。勝手に走り去って行った自分を捜してくれていた。