第13章 漆月☩しづき☩の惑い【🗝 ⇆ 主 *】
「はぁ、……はぁ、………んぅっっ」
ちゅ、ちゅる……と肌を吸う。
触れたその身は柔く、陶器のように滑らかで、甘い匂いがした。
「可愛い、………眠っていても尚、感じてくれるんだな」
眼鏡を外したその双眸。
獣のようなひかりを放つ、辰砂とラピスラズリの互い違いの色彩。
ふふ。唇に微笑を描き、華奢な身体に重なる。
優しく胸を捏ねながら、すん、と彼女の芳香を吸い込んだ。
桜と桜桃が調和する、彼女が自然に纏う匂い。
肌を唇でたどりながら、どく、どくん、と強く脈うっている生者の証を感じた。
「ん、ぁ………っ」
「ハァ、………主様、」
細い鎖骨の線をなぞる。
トラウザーズの釦を外すと、ずるん、と痛々しい程に張りつめた象徴が躍り出た。
「入りたい……あんたの、なかに………っ」
ぬるりと擦りつけながら、熱い吐息を吹きつける。
「ん………。」
眉根を寄せ、彼女が身じろぐ。頬を撫でる掌は、力強くも優しかった。
「いや……まだ、我慢だ………。」
えらの先に感じる、柔く、火傷しそうに熱い花びら。
このまま埋め込んでしまいたい衝動を、ナックはしかし、寸出で押しとどめた。
「あんたの心を、ちゃんと聞き届けるまで……。」
もち上げた髪に口付ける。
皆が寝静まった頃、こうしてふれる時間が愉しくて。
頭の奥ではもう一人の自分が、みずからを説き伏せているけれど、
『彼』はそれを鼻で笑った。
「お前だって、この女を欲しているだろう?」
告げると、ぐっと言葉につまる。そんな彼にさらに畳みかけた。
「そんな調子だと、他の奴らに盗られるぞ。
………お前はこの女しかみえていないのに、それを一番恐れているんじゃないのか?」
痛いところを突かれ、彼が吐息を封じる。
そんなもう一人の自分に対し、したかかな声音でしめくくった。
「もう後悔するなよ」
もう一度だけ唇を触れあわせ、のしかかっていた身体を離す。
滲んだ感情を持て余したまま。