第26章 今宵はふたりで【過去作派生中編 🤍→主←🐾 ♟️】
「それで、今日は終いにしなくてよいのか?」
「え?」
「あの貴族の男のことを気にしているのであろう?」
ヴァリスは先日開かれたグロバナー家主催の夜会で、
ウォールデン家当主の分家筋に当たるアンリリス家伯爵家の嫡男に見初められている。
その夜は驚き、そしてその場で求愛を断ったものの、
その男の絡め取るように何処か強い視線に、ぞわぞわとした不吉なものを感じたのだった。
今回練習しているロンドだって、
アンリリス家伯爵家から送られた仮面舞踏会に出席するために練習している。
あの男のヴァリスの全身を検分するように不躾な視線に、
見かねたシロがふたりの間に割り込むも、当の本人はますます愉しげに瞳を解いていた。
(あの男は何らかの行動を起こすつもりであろうな)
その目的が何であれ………。
「我が守ってやる。だからお前は自分のことだけを考えていればよい」
そう言って僅かに瞳を解く彼に、漸くその唇に笑みを描く。
「うん。ありがとう………みんな、今日は終わりにしよう」
彼女が告げると、フルーレはピアノの鍵盤からそっと指を離す。
「主様、お部屋までお送りします」
そう言って差し出された手に指を重ねる。
「うん、………ありがとう」