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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第13章 魅惑の香【🦾主 ← 🫖 & 🌹 ✉*】


「アモン、主様は何処に………、」

その時、響いたのは彼の声。聞き違える筈のない声。



「!」


「あぁ、主様ならここにいるっすよ」

彼女は力の抜け落ちた手足を動かして、彼らの腕のなかから逃れようと試みる。



ところが、ふたりは逃がすつもりなど全くないらしくて。

それどころか、彼女の手を導いて、自分たちの服を掴まませた。



青ざめる彼女を見下ろしながら、声を張り上げた。



「主様は私達とともにいますよ。どうぞ、お入りください」



「ふたりとも……!」

信じられないというように彼らをみつめる。一体なにを考えているのか。



——今入ってこられたら、誰だって誤解する。

恋人ではないふたりに身体を許したのだと。



「駄目よ……!」

愕然とするヴァリスのよそにノブが回る音がした。思わず彼女は叫ぶ。



「入って来ないで!」
思わずヴァリスは叫ぶ。怯える彼女をよそに、扉が開いた。



けれどもう遅かった。ボスキが姿をみせる。



「ふたりとも……やめ、てっ………!」
悲鳴に似た声が、凍てつきかけたボスキを解かす。



「ヴァリス……!」
急いた動作で駆け寄ると、彼らから彼女を引き離す。



「……どういうつもりだ」
守るように抱きしめたまま、ふたりを冷たく見据える。



「先に彼女を泣かせたのはあんたっすよね? オレ達は慰めようとしただけっすよ」

手前勝手な言葉に厳しい視線を向ける。



本心では拳を放ちたくて、みすがらの内側の焔に身をゆだねたくて仕方なかったが、

傷ついた彼女がさらに怯えるのが怖かったのだ。



すこし震えながら自分にしがみついてくる彼女の髪を撫でる。
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