第13章 魅惑の香【🦾主 ← 🫖 & 🌹 ✉*】
向かった先は二階の執事室だった。
丁度ハウレスとフェネスも外出しているらしく、部屋にはふたりだけで。
「主様、なにか飲みますか?」
ポットを取り上げた彼の手にみずからのそれを重ねる。
「……大丈夫だよ」
微笑うおもてがあまりに儚くて、気づけば抱きしめていた。
「あ、もん……?」
驚いた彼女が胸を押し返したけれど、解放されることはなかった。
寧ろ一層強く包み込まれ、とまどったように彼女の瞳がゆれる。
「……オレにしないっすか」
「え……?」
「オレだったら、あなたを絶対に悲しませないっすよ」
その瞳には、いつもの悪戯な色は宿っていない。
それがわかったから尚のこと戸惑って。
「わ、私はボスキの………、」
「オレだって、おふたりが幸せならそれでいいって思ってたっす。
でも今のあなたは真逆じゃないですか」
逸らそうとした頬を包まれ、どこまでも深い紅玉が彼女を射抜く。
「……でも」
「あらあら。アモンくん、主様を困らせてはいけませんよ」
穏やかな瞳とは裏腹に、力強い腕が彼女を引き寄せる。
「主様……私を選んでくださいますか」
「!」
逃げ出そうとした彼女の手首をつかむ。
「私も彼と同じ………いえ、誰よりも深く貴女をお慕いしております。
だから……どうか私を選んでください」
「わ、たしは………、」
紡ぎかけた唇が、言葉を探すようにひらいては閉じる。